「ばっかも――――んっ!!!」

 

ヤミカラスをポケモンセンターに預け、少女――チエのヤドンを回復して貰ったあと、
ガンテツの家へと戻ったキラとチエに降りかかったのはまずそれだった。
確実にキラはとばっちりなのだが、勢いに呑まれてしまい、
返す言葉もなくチエと共にガンテツのお説教を受けることになってしまった。

 

「人様にまで迷惑をかけた以上、トレーナー修行の旅はおあずけや。ええな」
「はい…ごめんなさい……」
「(お、終わった……)」

 

やっと終わりを迎えたガンテツのお説教に思わずキラは胸に溜め込んでいた息を吐き出す。
それによって、やっとガンテツはキラまで怒鳴りつけていたことを認識したようで、驚いた表情を見せた。

 

「おおっ…?!いたんか!?」
「はい…チエちゃんと一緒に来ていたんですが……」
「そ、それはすまんかった。ついいつもの調子で…」
「いえ、ガンテツさんがそれだけチエちゃんを心配しているということですから」

 

キラが微笑んで言うと、照れたガンテツは「な、なにゆうとるんや!」と声を上げるが、
その声に強い怒気はなく、ついついキラは微笑ましい気持ちになった。

 

「と、ところで、嬢ちゃんはわしの作ったボールを見にきたんやろ?なら、いくらでも見ていき」
「ありがとうございます」

 

無理やり話題を切り替えられたが、
やっと自分の第一目的であったボールの話題に話が切り替わり、キラの表情に明るいものが浮かぶ。
おそらく、今更紹介状を渡さなくともガンテツはキラにボールを見せてくれるだろうが、
さすがにずっと持っていてもしかたがないので、キラはガンテツに紹介状を渡し、
チエに案内されガンテツの作業場へと足を踏み入れた。
見慣れない道具に、見慣れないボール。
感心してキラがボールを眺めていると、不意に見覚えのあるボールを見つけた。

 

「…これ……」
「このボールは、あかぼんぐりから作られるレベルボールだよ。
自分のポケモンが相手のポケモンよりレベルが高いと有効なの!」

 

ボールについて説明してくれるチエを前に「へぇ〜…」と感心したような声を洩らしながら、
キラは再度レベルボールに目をやった。
確か――キラの記憶が正しければこのボールは、
母親――ヒイナのポケモンであるデリバードのクリスが入っているボールと同じデザインだ。
ヒイナからガンテツについて何も聞いていないが、ガンテツの性格から察するに、
面識――それどころか実力を認められなくてはボールを見せてもらうことすら許されない。
となれば、ガンテツとヒイナは知り合いということになる。
よくわからない状況にキラが首をかしげていると、突然後方から慌ててガンテツが詰め寄ってきた。

 

「嬢ちゃん!お前さん、ヒイナの娘か!?」
「は、はいっ…、そうです…!」
「おーおー、そうかいそうかい!よく見てみればよぉ似とるわ!」
「あ、あの、母とはどういった関係で……」
「なに、単純にボール職人とトレーナーの関係や。ヒイナは昔っから半端なく強かったからのぉ」

 

懐かしそうにそう語るガンテツを見て、キラは思わず嬉しくなる。
気難しいはずのガンテツが自分の母親を褒めてくれているのだ。
それは自分のことのようにとても嬉しことで、キラは笑顔を見せてガンテツに「ありがとうございます」と頭を下げた。

 

「ねぇ、おじいちゃん!キラお姉ちゃんにボール、プレゼントしてあげたら?
ウバメの森でヤミカラスたちの親玉に勝ったぐらいポケモンバトルが強いんだよ!」

 

チエがガンテツにボールを与えることを勧めるが、ガンテツの表情は渋い。
だが、キラとしては特別不思議なことではない。
誰かに紹介された程度で、ガンテツがボールを与えてくれるほど自身の作るボールに対するプロ意識が低いとは思えない。
与える存在の実力を自らの目で確かめない限りは、ボールを与えることなどしないだろう。
もしくは、目に見える強さの象徴が必要だ。

 

「嬢ちゃん、バッチは――持ってないんか?」
「はい、まだ……」
「…わしもバッチがトレーナーのすべてとは思っとらんが、なしと言うんもな」
「……ではまた、改めてお伺いします。そのときはジョウトリーグのバッチを揃えて」

 

自信満々の表情を浮かべてはっきりと言うキラに、ガンテツとチエは驚いたような表情を浮かべたが、
ガンテツはすぐに納得したように笑い声を上げると、ポンとキラの肩を叩いた。

 

「よぉ言うた。それでこそわしのボールを扱う予定のトレーナーや。
……これはフスベの族長とヒイナのよしみで――餞別や」

 

ひょいとガンテツが作業場から取り出したのはバスケット。
なんだろうとキラが首をかしげると、チエが説明してくれた。

 

「これはぼんぐりをしまっておくぼんぐりケースだよ。
あ、ぼんぐりっていうのは、おじいちゃんの作るボールの材料になったり、
最近だとポケスロンの競技前に飲むポケドリンクを作るのに使うんだよ!」
「そう…なんだ……」
「まぁ、ぼんぐり文化はジョウト特有と言ても過言やない。嬢ちゃんは他地方出身やろ?知らんでも無理ないわ」
「でも、ジョウトではぼんぐりってすごく役に立つから、貰っていった方がいいよ!」

 

そうチエに背中を押され、キラはガンテツからぼんぐりケースを受け取る。
こんな立派なものを貰うのはなんだか気がひけたが、
ガンテツの厚意を無碍にするのも失礼だと考えると、笑顔でキラはガンテツに礼を言った。
すると、図ったかのようにキラのポケギアの着信音が鳴り響く。
「すみません」と断りを入れたからキラはポケギアの通話ボタンを押すと、
聞こえてきたのはヒワダタウンのポケモンセンターのジョーイの声だった。
ウバメの森で戦ったヤミカラスが意識を取り戻したとの連絡で、
キラはジョーイにすぐにそちらに向かうと告げると通信を切った。

 

「ヤミカラスの意識が戻ったそうなので、ポケモンセンターに向かいます」
「気ぃつけるんやで?ウバメの森のヤミカラスは気性が荒い言うて有名やからな」
「はい」

 

ガンテツから忠告を貰い、キラはガンテツの家を後にするのだった。