キラに連れられウバメの森へとやってきたヤミカラスは、
戸惑う様子もなく森のヤミカラスたちに別れを告げた。
当然、森のヤミカラスたちは彼女を引きとめたが、
それに対して彼女は一切応じることはなく、あくまでウバメの森を出て行くと言い切った。
そこまでヤミカラスが言うと、彼女の頑固さを知っているのか、
ヤミカラスたちから彼女を引きとめようという気配が消える。
そして、最後にはヤミカラスたちは彼女を笑顔で見送ってくれた。
ヤミカラスたちに見送られ、キラたちはウバメの森を抜けて再度コガネシティまでやってきていた。

 

「………」

 

高いビルが立ち並び、多くの人々が行き交う。
やはり、そんな状況がキラには苦手だった。
少しでも人ごみからは距離を置こうと、
キラは少し顔色を悪くしながらもコガネシティを通り抜けて35番道路へとやってきていた。

 

『キラ、大丈夫?』
「う、うん…もう落ち着いたよ」
『たまにいるわよね、人間のくせに人間が苦手なヤツって』
「…人間が苦手なわけじゃないよ?人ごみが苦手で…」

 

呆れたような表情でキラに言葉を向けるヤミカラスに、キラは苦笑いを浮かべながら言葉を返す。
キラの言い分を聞いたヤミカラスは、キラに対して特に言葉を返すことはせず、不意に飛び上がった。
宙で羽ばたくヤミカラスの動きにぎこちなさはなく、完全に傷は癒え、体力も戻っているようだ。
それを目で確認できたキラは嬉しそうに笑った。

 

『で?これからアンタはどうしたいわけ?とりあえずシンオウに戻るつもりはないんでしょ?』
「うん…、これからポケスロンドームって所に行きたいんだけど……」
『ならすぐそこじゃない。そこの自然公園のゲートを抜けたらポケスロンドームすぐよ』
『わ〜ウバメの森に住んでたのに詳しいんですね!』
『フンッ、ヤミカラスの情報網をなめるんじゃないわよ!これぐらいの情報、すぐに手に入るんだからっ』

 

不機嫌そうにヤミカラスは黄夏に言うと、自分の定位置だとでも言うかのようにキラの頭の上に収まる。
突然自分の頭に乗ってきたヤミカラスに驚いたキラは条件反射的に顔を上げると、
なぜかヤミカラスはやや照れくさそうな表情を見せていた。
ヤミカラスの表情の意味がわからないキラが不思議そうな表情を浮かべていると、
視線をあちらこちらへ泳がせながらヤミカラスが口を開いた。

 

『な、名前決めなさいよ…他の連中につけてるんだからアタシにもつけないのはな、なんか変でしょっ…』
「……そうだね。せっかく仲間になってくれたんだから、名前付けないとね」
『へ、変な名前付けたら承知しないわよ!?』
「う、うん…!えーと……黒夢でどうかな?」
『…ま、まぁ、悪くはないわね。いいわよっ、黒夢で』
「うん、これからよろしく、黒夢」

 

キラが笑顔でヤミカラス――黒夢の名を呼び、
手を伸ばし改めて「よろしく」というと、黒夢は戸惑った様子を見せながらもキラの手にくちばしを摺り寄せた。

 

『これがゴージャスボールの効――』
『違うわよッ!!こ、このアタシがモノで買収されたと思ってんの!?
あーもうっ!アンタさっきから生意気なのよー!!』
『みぎゃ―――!!』
「(あー…より一層黄夏の『お姉さん』に対する恐怖心が強くなりそうな気が……)」

 

黒夢の逆鱗に触れてしまい、追いかけられる黄夏。
相当頭にきたらしく、乱れ突き付き。
そんな状況で追いかけられる黄夏は本気で泣いており、
キラの想像通りに「お姉さん」に対する苦手意識が強くなりそうだ。
だが、何かの拍子で克服するきっかけにもなるかもしれないとも思ったキラは、
あえて黒夢を止めることはせずに二人の攻防を見守ることにした。
苦笑いを浮かべながらキラが黄夏と黒夢の攻防を見ていると、不意に紺優がキラの名を呼ぶ。
「なに?」とキラが振り向くと、そこには擬人化の姿を取った紺優がいた。

 

「どうしたの?」
「キラがポケスロンに慣れるまではアチャモたちは私が預かります。そうすれば、手持ちに余裕ができるでしょう?」
「……そう…だね。私までまるっきり初心者だと、アチャモたちを戸惑わせちゃうね」

 

紺優の意見にキラも賛成のようで、腰のベルトからアチャモたちのボールを取ると、紺優に手渡す。
それを受け取り紺優はボールの中のアチャモたちの様子を確かめたあと、鞄のベルトにボールをつけた。

 

「さ、はやくポケスロンドームへ向かいましょう。
出場するためには3体のポケモンが必要ですからメンバーを補充しなくては」
「うん。……でも、誰か手が空いてるかな…」
「長期になると言ってしまいましたからね…みなさん出払っているかもしれませんね……」

 

困ったような表情を浮かべながら、キラと紺優はシンオウに残っているであろうメンバーたちの姿を思い浮かべるが、
どうにも嫌な予感が当たりそうな気がして思わず苦笑いを浮かべてしまう。
しかし、心配していてもはじまらないとキラは割り切ると、黄夏と黒夢に出発することを告げた。
それを聞いた黄夏は心の底から嬉しそうな表情を見せると、猛スピードでボールの中へ戻っていく。
その様子を苦笑いしながら見守ったあと、キラは黒夢にボールを向けると、
黒夢は「フンッ」と不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、すぐにボールへと戻っていった。

 

「紺優、行こう」
「ええ、行きましょう」

 

黄夏と黒夢のボールをベルトに戻し、
キラは紺優と共にポケスロンドームへと向かうのだった。