すっかり習慣となったカイナシティ市場での買い物。
自分の好奇心に任せてあちら、そちら、こちらと店を転々とする。
 欲しいな――と、思っても、すぐに買うことはせずに、可能であれば値切り交渉をする。
そして、値切りをはじめたら限界まで値切る――
そんな買い物が習慣になっていた少年――リョウ。
 本来であれば、今日も市場で面白い商品がないか探してみようと思っていたのだが――
とある人物からの呼び出しによって、それは中止となっていた。

 

「……どうして僕が呼ばれるかな」

 

 愚痴を漏らしながらヒマワキシティ方面に向かって119番道路を進むリョウ。
その道はリョウにとって割りと歩きなれている道だった。
 それというのも、自分にとって先輩トレーナーに当たるソウキの秘密基地がこの119番道路にあり、
ソウキの仕事で人手が必要になったり、ソウキが珍しいものが手に入れた時などに、リョウは何度も訪れているのだ。
 そして今回も、リョウがこの道を歩いている理由は――
仕事が間に合わないというソウキに呼び出されたからだった。

 

「僕よりユイの方がよっぽどヒマ人だと思うんだけど」
『いや、ソウキさんもリョウをヒマ人と思って呼んでるわけじゃないと思うよ…』
「忙しいと思っていたら、呼ばないと思うけど」
『そ、それは…そうだけどさ……』

 

 パートナーであるラグラージのクイを横に従え、ソウキの待つ彼の秘密基地へと足を進めるリョウ。
ソウキの人選に文句を言いながらも、ちゃんとソウキの呼び出しに応えているリョウ。
なんだかんだで付き合いのいいリョウに、クイは苦笑いを浮かべながらリョウの後に続く。
 天邪鬼なのか、ただ文句を言わないと収まりがつかない性質なのか――リョウの本心はクイにもわからない。
だが、どちらにしても、自分のパートナーは性根はいい人なのだと改めてクイは思う。
 だが――

 

「お礼、いつもの3割り増しで要求しよう」
『(根っこから上が……アレなんだよね…)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大雑把にもほどがあるぞ』
「フッ、真に美味しい料理は目分量から生まれるものなのさ…」
『栄養のバランスが崩れて、商品としては最悪だがな』
「げあ!」

 

 ソウキのジュカイン――葉が、ポケモンが人間に対する仕打ちとは思えないほどの力で、
人間――ユイの頭をスパーンッと叩く。
そして、その叩かれた勢いが余ったユイは壁に叩きつけられ、
大木の上に作られたソウキの秘密基地が大きく揺れた。
 ソウキの人選に文句を言っていたリョウ。
しかし、すでに自分よりもヒマ人であるユイがいた。
 リョウとユイ。
2人の手を借りなくてはならないほどソウキは仕事を溜め込んだのか――
と、リョウは一瞬思ったが、先ほどのユイと葉のやり取りで、
ソウキが自分を呼んだ理由になんとなくの見当がついた。

 

「あの人、本当に役立たずだね」
「リョ、リョウ……」
「でも、なんであんな役立たずを呼ばなくちゃいけないほど、アンタも仕事を溜めたのさ」
「あーと……えーとぉ…」
『諸事情でジョウトに行ってったッスよ!』
「ジョウト?」

 

 口ごもるソウキに変わってリョウの質問に答えたのは、
秘密基地の奥から姿を見せたラグラージの水。
 クイの実の兄である水は、弟であるクイとの再会を喜ぶように
「クイー」と名前を呼びながら片手を挙げながらクイに近寄っていく。
それを受けたクイも笑顔で「兄さん」と答えて片手を挙げ、2人はパンッとハイタッチを決めた。
 お決まりとなっている兄弟の再会が終わると、
リョウは水に仕事を放ってなぜジョウトへ行っていたのか尋ねる。
すると、いつもであれば考えもせずにあっさりと答えるはずの水が、
主人であるソウキの了解を求めるかのように彼に視線を向けた。
 いつもとは違う展開に、リョウは彼らに面倒なことが起きたことを理解する。
聞いたら面倒に巻き込まる――そんな気もしたのだが、
リョウが断るよりも先にソウキが口を開いてしまった。

 

「ユイに呼び出されて…ね…。込み入った事情だったから断れなくて……」
「毎度よろしく、お人よしで自分の首を絞めたんだ」
「………はい…」

 

 容赦のないリョウの指摘に、
ソウキは泣き笑いを浮かべながらもリョウの言葉を肯定した。
 内心、「そんな風に言わなくても…」とクイは思ったが、
それを口にすると逆にリョウの毒舌を煽ることになる。
なので、ソウキに対して申し訳なくは思いつつも、クイは何も言わずに黙って状況を見守った。

 

「――それで?僕はなにを手伝えばいいわけ?」

 

 ソウキを叩きのめすほどの毒舌を振るっておきながら、
手のひらを返したように自ら手伝いを催促するリョウ。
 やっぱり根っこはいい人だ――とクイは感心していたが、
手伝いの内容を尋ねられたソウキの表情はやや曇っていた。
 ソウキの曇った表情をリョウが見逃すわけもなく、不機嫌そうな表情をリョウは顔に浮かべると、
自分の傍にいた水にソウキが自分に任せるつもりでいた仕事を教えるように言った。

 

『えーと、リョウにはシンオウ地方の
ナナカマド博士の研究所に行ってもらうつもりだったッス!』

 

 その水の一言で、場の空気は3度ほど下がっていた。