「連れてこない方がよかったかな…」
そう、一言漏らしてリョウは3つのボールを宙に放る。そして、3つのボールが高さの頂点に達した時――
ボールの中から3体の巨大なポケモンたちが姿を現した。
「あ、あのポケモンたちは…!?」
「ホウエン地方に伝わる伝説のポケモン――レジロック、レジアイス、レジスチルだ」
岩の体、氷の体、鋼の体のポケモン――それがレジロックたち。
そして、彼らはリョウがゲットしたポケモンたちでもあった。
初めから、レジギガスとレジロックたちになんらかの関連性があることはリョウも想像していた。
だが、まさかレジロックたちがレジギガスの目覚めさせる鍵になるとは、さすがのリョウも予想外。
とりあえず、レジギガスに対抗できるであろうレジロックたちを出しては見たが、
彼らだけでレジギガスに対抗できるのかは微妙なところだった。
大地を揺るがしながら、遂に完全に立ち上がったレジギガス。
しかし、未だに寝惚けているのか、リョウたちに対して敵対心がないのか分からないが、襲い掛かってはこない。とりあえず――と、リョウはレジギガスの様子を見守っていると、
不意にレジアイスがレジギガスに近づいた。
『まみー、早く起きてくださいデス』
「(え、レジギガスってメスなの?)」
『我らのますたー決まった。是非、見て欲しいデス』
『起きてくれないと、殴るデス――ヨ!』
「カンナ、クサビ、今すぐノミ止めて」
『『いえす、ますたー』』
『さっさと起きやがれデスまみー』
危うくレジギガスに殴りかかりそうだったノミ――レジスチル。
リョウの指示に即座に反応したレジロックのカンナと、レジアイスのクサビによって
何とかノミの暴挙は防ぐことはできたが、ノミの気は治まっていないらしく、
カンナとクサビに押さえつけられながらもジタバタと暴れていた。
しかし、ノミたちのコント紛いなやり取りを前にしながらも、レジギガスはうんともすんとも言わない。
本当に目覚めているのか疑問に思ったリョウは、とりあえずクサビの元へと近づいていった。
「クサビ、レジギガスは本当に目覚めてるの?」
『起きてはいるデス。でも、まみー、すろーすたーとデス』
「…寝惚けてるってこと?」
『そうデスますたー。まみー寝惚け酷いデス』
『だから、殴ってまみー起こすデス!』
「だからやめてってば」
またレジギガスに殴りかかろうとするノミ。それをたしなめる形でリョウがノミの体をポンポンと叩くと、
ノミは不満げにジタジタと抵抗したが、クサビたちを押しのけるような強硬手段に出ることはなかった。
「…あとどれくらいで話せるようになる?」
『まだ、ちょっとかかるデス』
『でも、待てる程度、思うデス』
「…一応聞いておくけど、話せるようになって早々襲いかかってはこないよね」
『まみー、襲い掛かってきた、我ら、ますたー守るデス!』
「ノミ、そうじゃなくて――」
『安心なさい人間よ。私にあなたたちを襲うつもりはありません』
「え…?」
不意にリョウの頭上から降ってきた威厳に満ちた女性の声。
ハッとしてリョウが顔を上げれば、そこにはレジギガス。
考えずとも、今の声がレジギガスのものであることは確かだろう。
しかし、リョウが驚いたのはレジギガスの声が女性のもであったことではない。
リョウが本当に驚いたのは――
「(レジギガスも片言交じりかと思ってたのに…)」
そう、リョウがなによりも驚いていたのは、レジギガスがはっきりと言葉を操っていること。言葉を操ることになれていないらしいノミたちは、リョウたちと言葉を交わすときは必ず片言が混じっている。
だが、レジギガスはこれでもかと言うほどに流暢に言葉を操っている。
レジギガスもノミたちと同様なのだろうと思っていただけに、リョウの驚きは大きいものだった。
『まみー、我らのますたー、りょう』
『我ら、目覚めさせ、力で従えた』
『りょう、とても――毒舌!』
「………全部否定はしないけど、クサビとノミはレジギガスに僕を握りつぶして貰いたいの?」
『あなたたちが望むなら――握りつぶさないこともありませんよ』
ずん、と――重さの増す空気。
その原因は、すべてを押しつぶすような――レジギガスの殺気の含んだ怒りだった。
怒気を放ちながらリョウを見下ろすレジギガス。
だが、彼女の怒りも尤もだとリョウは思っているし、
ノミたちが殺してしまいたいほど人間を恨んでいても、それは仕方のないことだとリョウは理解している。ただ――ノミたちは恨み以上に、人間が好きだということもリョウは知っていた。
『りょう、いなくなる、望まない』
『りょう、我ら、受け入れてくれる』
『りょう、嘘言わない』
『……あたなたちは…その人間が好きなのですね』
『いえす』
『おふこーす』
『のー!』
「………は?」
『我、大好きデ――』
『わー!ノミー!!リョウに抱きついちゃダメだってばー!!』
おそらく、リョウに抱きつこうとしたのであろうノミ。
だが、それをリョウとレジギガスたちのやりとりを
今まで後ろで見守っていたはずのクイがノミとリョウの間に入って慌てて止めにかかる。ノミの腕を力尽くで押しとどめ、クイがカンナとクサビにノミを止めるように言うと、
カンナたちは「いえすさー」と答えてノミをクイから離した。
「さすがクイ」
『ほ、褒めてくれるのは嬉しいけど、リョウももう少し危機感を……』
「僕が危機感もっても仕方ないでしょ。
大体、そんなもの持ってたらノミたちのトレーナーなんてやってられないよ」
『!』
強い力を持ったノミたち。
しかし、彼らは自分たちが強い力を持っていることを完全には理解していない。
だから、意図せず強い力を振るってしまう。
それをリョウが危険だと理解すれば、自分の命を危険にさらすことは減るだろう。
だが、それを危険だと理解すれば、とてもではないがノミたちを――
大きな力を持った危険なポケモンたちを傍においておくことなどできはしない。――かつて、ノミたちを眠りにつかせた先人たちのように。
『あなたは…この子たちを危険な存在だと理解しながら――傍に置くのですか?』
「そうだよ、ノミたちに自分の力が危険だって理解させるためにね」
『…自らの身を危険にさらしてまで……ですか?』
「別に僕にとっては危険じゃないし。
僕に降りかかる危険はクイたちが掃ってくれるからね」
平然とした様子でレジギガスに答えを返すリョウ。その後ろで半分諦めた様子でクイが「ああ…もう…!」と地面を叩くが、
それを知っていながらもリョウはフォローもせずにノミたちの元へ近づいていった。
「4人で話したいこともあるだろうから、僕たちは地上に帰るよ」
『…この子たちを置いていくのですか』
「そうだよ、じゃないとレジギガスと話せないでしょ」
『……この子たちを…手放すというのですか?』
「…さっきの僕の話、聞いてなかったの?
手放すわけないでしょ、ちゃんと明日の朝、迎えに来るよ」
『りょう、律儀』
『りょう、こなくていい。我ら、りょうの元へ――』
「面倒になるからここで待ってなさいっ」
『『『いえすますたー!』』』