キッサキシティのポケモンセンターの食堂。
そこで食事を取りながらリョウは――ナナカマド博士から質問攻めにあっていた。

 

「君はレジロックたちを自分の力でゲットしたのだな?」
「…そうですよ」
「では、彼らをどこでゲットしたんだね?」
「ホウエン地方の111番道路、105番水道、120番道路にある遺跡です」
「ふむ…」

 

 リョウの答えを聞き、考え込むようにあごに蓄えたひげを撫でるナナカマド博士。
その博士の横では、ハマナがリョウの言葉をパソコンに入力していた。
 ちょっとした好奇心でレジロックたち――カンナたちを連れてレジギガスの元へと向かったリョウ。
ほんの少しは、「なにか起こるかな?」とは思っていたが、レジギガスが目覚めるなんていうのは予想外も予想外だった。
おかげで、ナナカマド博士たちの前でカンナたちを表に出すことになってしまい――
伝説のポケモンに興味津々の彼らから質問攻めにあうという状況になっていたわけだった。
 うかつなことをした自分に、内心で愚痴を漏らしながら、
リョウは新たにナナカマド博士から与えられた質問に耳を向けた。

 

「では、君がレジロックたちを知るきっかけはなんだったんだね?」
「…それは、シセンという人から『冒険に付き合わないか?』と誘われたんです」
「……シセン?考古学者のシセンか?」
「いえ、その人は冒険家だと言ってました」
「ふむ…ならば、あのシセンで間違いないな。
――とにかく、君はシセンに誘われてレジロックたちをゲットすることにしたのだな?」
「…最初こそ、ゲットするつもりはなかったんですけど、
シセンさんに『なにごと経験だ』とか言いくるめられてゲットさせられました」
「アイツらしい…」

 

 少し呆れた様子でため息を漏らすナナカマド博士。
すると、今度はその博士の姿を見たリョウの心に好奇心が芽生えた。
 偶然出会った自称冒険家の老人――シセン。
数週間の間、レジロックたちを探して一緒にホウエン地方を旅したが、
嘘か本当か分からない冒険譚は飽きるほど聞いたが、彼自身についてはまったく聞いていなかった。
 一期一会の――もう二度と関わることのない人物と思えば、まったく気にならないのだが、
間接的にもこうして関わると――リョウのシセンに対する好奇心は、息を吹き返したように湧き上がっていた。

 

「知り合いなんですか?」
「うむ、シセンは私の古い友人なのだ」
「…ナナカマド博士の友人ってことは……考古学者なんですか?あの人」
「いや、今はジムリーダーを勤めている」
「………は?」

 

 考古学者、冒険家――かと思ったら、新たに飛び出してきたジムリーダー。
新たな職業名が飛び出してきたことにもリョウは驚いた。
 が、それよりも驚いたことは――

 

「…ジムリーダーなのに、他の地方で伝説のポケモン追いかけてるんですか?」

 

 元来、ジムリーダーは自分がリーダーを勤めるジムを空けることは許されていない。
止む終えない事情や、当人からの強い希望などによっては、協会側がジムを空けることを許す場合もある。
だが、それは滅多なことで許されるものではないし、長期間にわたって許されるものではなかった。
 しかし、リョウはジムリーダーであるシセンと数週間旅をした――
それは、シセンが数週間ジムを空けたということは事実なわけで。
どういうことなのかとリョウが尋ねると、ナナカマド博士は「はぁ〜」と深いため息をついてからリョウの疑問に答えた。

 

「それは問題視されているのだが…な……。
高い実力と、チャレンジャーが少ないこともあって、シセンはジムを空けることについてはある程度認められているのだよ…」
「…まぁ、確かにトレーナーとしての実力は、ホウエンの四天王クラスのでしたけど」
「あら?リョウくんはホウエン地方の四天王とバトルしたことがあるの?」
「…一応」

 

 不意にリョウに降ってきた質問。それは今まで聞き手に徹していたハマナ。
うっかり公開してしまった余計な情報に、リョウはまた自分に対する悪態を心の中で漏らしながら、
ハマナの質問に詳細を濁すように答えを返す。
 が、好奇心が強いらしいハマナにはリョウの小さな抵抗など無意味のようで、
リョウのホウエンリーグでの結果を聞こうと――したが、それをナナカマド博士が制して、リョウに新たな話題をふった。

 

「リョウくん、少しの間、私の元で研究の手伝いをしてくれないかね?」
「……それは、カンナ――レジロックたちの研究のために、ですか?」
「うむ」

 

 リョウの想像と違わなかったナナカマド博士の答え。
だが、リョウはそのナナカマド博士への返答に頭を悩ませていた。
 カンナたちが研究の対象になることは、別に問題ではない。
今まで一緒にいたからこそ分かることだが、ナナカマド博士は研究のために利己的な行動に出る人物ではない。
であれば、カンナたちが嫌な目にあうこともないはずなので、研究の協力を渋る理由はなかった。
 だがしかし、ナナカマド博士の下にカンナたちだけを残していくわけにはいかない。
となると、自ずとリョウもシンオウに残らなくてはならなくなるわけで――
すでにシンオウの大地に若干の飽きを覚えているリョウとしては、非常に悩むところだった。

 

「手伝ってくれるなら――私が所有しているシンオウ神話の資料を好きなだけ読ませてあげよう」
「……………」

 

 シンオウ地方に伝わる神話――それはリョウも知っている。
以前、このシンオウ地方に訪れたのも、この神話についての見識を深めるためだった。
 ミオシティの図書館。
カンナギタウンの長老の家。
テンガン山山頂の遺跡――槍の柱。
 それらすべてに足を運んだリョウではあったが、
リョウの好奇心を埋めてくれるような答えや知識はそこにはなく、
やがて飽きたリョウはそのままホウエンへと帰っていた。
 だが、今回はその埋められなかった「好奇心」を満足させてくれる答えなり知識があるかもしれない。
もちろん、既知の情報しかない可能性もあるが――この不確定な流れに乗るのも、また一興かとリョウは思い始めていた。

 

「わかりました。お付き合いしますよ――ボクが飽きるまでは」