地道に階段を登りとは灯台の一番上を目指す。
内装に特に変わった要素はなく、来ないほうがよかったかなーと思い始めた頃、2人はやっと最上階にたどり着いた。高いところから見渡す風景は言うまでもなく美しい。
すっかり疲れの吹っ飛んだは無邪気に窓から外の風景を眺めた。
すると、の目にあるものが入ってくる。美しい海の上に存在する四つの島。
それは、これからが向かおうとしている渦巻き島だった。あの銀のポケモンに会えるかもしれない――そう思うとの胸は躍る。
その心境の変化はしっかり表情に出てしまったようで、はふっと笑う。
『相当ルギアってやつに惚れ込んでるらしいな』
「ん…、なんていうか……、ただもう一度会いたいの。……深い理由はないんだけどね?」
少し困ったような表情を浮かべては言う。だが、の直感的な行動は今に始まったことではない。
それを理解しているは特に何を言うこともなく「そうか」と言葉を返して外へ視線をやった。
銀影
いつも通りにのんびりとすごしていたある日。
何の前触れもなくはルギアに会いたいと言い出した。
もちろん、そのときはルギアという名称すらわかっておらず、
ただ漠然とが幼き日に見た銀色のポケモンを見つけたい――そんな話だった。至上主義者の多いパーティーなのだから、当然の願いに異を唱えるものはなく、
とんとん拍子に話は進み、すぐにある程度の情報はそろった。そして、ジョウトに旅立とうと決まったある日、
ルギアと同じく伝説のポケモンであるディアルガのがあることを提案した。
『伝説のポケモンは基本的に気難しい上に人間嫌いな者が多い。
誤解を招かないためにも少数で尋ねて行った方がいいだろう』
このの言葉でとりあえず、に同行する人数は2人に決まった。当然、誰しもがゴウカザルのとフライゴンのがについていくことになるだろうと思った。
仮に別の誰かが「行きたい!」と名乗りを上げても、直後にとの攻撃を受けて重傷を負うからだ。わかりきったオチがあるのだから、誰もに同行するとは言わず、
暗黙の了解でとが名乗りを上げようとしたそのときだった。
『私はとが適任だと思うよ』
とぼけた顔でそうは言った。
は一瞬時が止まったかのように感じたが、次の瞬間にはどす黒い殺気が身に刺さり思わず飛び上がった。もちろんいうまでもなく、殺気の主はと。
殺気の篭った視線をたちに注ぎながらはに問う。
『なんでコイツらなのよ…!』
『これでいては冷静だ。伝説のポケモンが相手でもしっかり立ち回ってくれる。は用心棒兼移動手段。
が一緒ならのコントロールもしやすい。…適等だと思うが?』
の問いに何の迷いもなくは答えを返す。
それなりに筋の通った意見にはぐっと黙るが、こらえきれずにが吠える。
『なんで私たちじゃダメなのよ!!』
『うむ、お前たちは強い。何があってもを守り通すだろう。だが、その強さと過保護は今回はマイナスだ』
「ふう」とため息をついてはさらに理由を述べる。
『先程も言ったように、伝説のポケモンは気難しく、人間嫌いな者が多い。当然そうなればを貶す可能性がある。
と貶された場合、お前たちでは怒りを押しとどめて冷静な行動をとるのは難しい。
そうなれば、の身に危険が及ぶだろう?』
首をかしげて「ね?」とでも言うかのようにとに目をやる。
確かに、の言うことも尤もで、もしルギアがを貶した場合、
かなりの確立でとはルギアに襲い掛かるだろう。そうなっては大変なことになる。
2体1ならどうにかなるかもしれないが、相手は伝説のポケモン。
数で勝ったからといって勝てるような相手ではない。の意見に納得したのか、は小さなため息をつくとギロリとを睨んだ。
『になにかあったら――わかってんでしょうね…!!』
『うおぉっ……!』
殺気だったの顔を思い出したの背筋に悪寒が走る。
あれはマジの顔だった。あれはマジで、に何かあったら自分を亡き者にする目だった。今更だがは今回、自分がかなり面倒な仕事を任されていることに気づく。
しかし、少しの嫉妬と殺意を我慢して、大きな開放感を得たほうが自分にとって得なはずだとは結論づけた。
…そうでもしなければなんだか救われない気がした。
ふと現実にかえってがあたりを見渡すとの姿がない。
「なんかあった!?」と一瞬が表情が青ざめるが、思いのほかすぐにの姿が目に入りほっと胸をなでおろした。冷静にのそばをよく見てみると1体のデンリュウがいる。
おそらくあのデンリュウと話すためには窓から離れていったのだろう。心の中で「驚かすなよ」と思いながらはゆっくりとのほうへと歩き出した。
「すごいね、ずっと灯台で働いてるんだ」
『すごくなんてないよ。私はここが好きだから働いているんだもの』
感心してはデンリュウに言葉をかけるとデンリュウはニコニコと笑いながら言葉を返した。
が声をかけたのは灯台の光として生活しているというデンリュウ。
彼女の仕事のことが聞きたくてが声をかけたようだった。
『最初は寂しかったけど、よくご主人様もきてくれるから、寂しさよりもこの町の役に立ててるってことの方が嬉しいな』
『ご立派な意見だな』
デンリュウの言葉を聞いてはうんうんとうなずきながら言う。
絶対に、絶対に自分ではこのデンリュウのような立場になったとき、こんなことは言えないだろう。
故にはこのデンリュウに対してとても感心した。がとデンリュウの会話を聞いていると不意に階段の方から足音が聞こえる。
誰だろうと思ってが階段のほうへと視線をやると、そこには見覚えのある顔があった。
「………さん?」
「?……ミカンさん??」
姿を見せたのはナギサシティで出会った女性――ミカン。
何度か会話をしたことはあるが、それほど深い関係ではない。
当然、は彼女がこの町の出身であることすら知ってはいない。想定外の再会にお互いに困惑気味のとミカン。
みかねてが会話の糸口を開こうとしたが、
不意にデンリュウから発せられた「ご主人様?」という言葉で空気が動き出した。
「ミカンさんがこの子のトレーナーなんですか?」
「ええ、アカリちゃんは私の大切なお友達よ」
そうに言葉を返してミカンはアカリ――デンリュウの元へと歩き出し、
アカリに触れられるまでの距離にくると嬉しそうにアカリを撫ではじめた。
大好きなミカンになでられて嬉しいのかアカリは尻尾を振っている。
そんな光景を見ても穏やかに笑った。
「…そういえば、さんがどうしてここに?」
「今はちょっとした観光です」
「じゃあ、何か別の理由があるのね?」
ミカンに問われは「はい」と返事を返す。
強い意志を持ったの返答を聞いてミカンは少し戸惑いを見せた。
そんなミカンの反応を不思議に思っては首をかしげるとミカンは思い切ったようにに質問をぶつけた。
「ジム戦…?」
「いえ、渦巻き島の探索に」
の返答を聞いてミカンはほっとしたように胸をなでおろした。
やはりミカンの反応の理由がわからないは首を傾げるばかりで、一向に答えが導けそうになかった。
そんなを見てか、口を開いたのはアカリだった。
『ご主人様はこの町のジムリーダーなんだよ』
「あっ」
アカリの言葉を聞いては以前にミカンが自分はジムリーダーなのだと語っていたことを思い出した。
だいぶ前に聞いた話だったせいかはすっかり忘れてしまっていたが、確かにミカンはジムリーダーだと語っていた。
「さんのことだからジョウトリーグへの挑戦かと思ったんですけど…」
「普段ならそうなるんですけどね」
「あはは」と苦笑いを浮かべながらはミカンに言葉を返す。
そして、不意に頭に浮かんだ案についてしばし考えた。ミカンはこのアサギシティの出身で、さらにはジムリーダーで、とてもポケモンのことを愛している存在だ。
ならば、信頼するに値するだろう。
「あの、ミカンさん。…ルギアってポケモン知ってますか?」
からの質問にミカンはキョトンとする。
彼女の反応を見ては自分が選択を誤ったのだと思った。
あわてて「すみません」と謝ろうとするが、
それよりも先にミカンの表情が穏やかになりニコニコと微笑みながら口を開いた。
「知っています。渦巻き島に住んでいるといわれている伝説のポケモンです。
ある人がそのポケモンに会いに行ったことがあります」
「あ、会えたんですか…?」
「ええ、一瞬だったそうですけれど」
くすくすと笑いながらミカンは答えを返す。
なにか笑うようなエピソードでもあるのだろうかとが不思議そうに思っていると、
ミカンはの疑問に答えを返してくれた。
「とても好き嫌いが激しいポケモンみたいで、息つく暇もなく追い出されたそうです」
そのエピソードを聞く限り、相当気難しいポケモンらしい。
傍で話を聞いていたは本当に今回の旅に同行したのが自分でよかったと思った。ミカンの話してくれた状況になって、さらにその場にたちがいたらと考えると、とてもではない笑えない。
だがそれ以上に、今回そんなことになって、それがたちに知られたら――
と思うと死にそうだった。ああっ、胃が痛い!
「…さんもそのポケモンに会いに行くんですか?」
「はい、一瞬でもいいから会いたいんです」
追い出されたというエピソードを聞いてもの決意はまったく揺らがなかった。
むしろ、ルギアは渦巻き島にいるという確証を得て逆に勢いついているようだった。そんなの揺るぎない意思に邪なものはない判断したのかミカンは、
優しく微笑んで「頑張ってください」と言って握手を求めてきた。
は一瞬キョトンとしたが、すぐに笑顔を見せてミカンの手をとった。
■いいわけ
(書き手が)寄道しまくりです。いつまでたってもルギアに会えそうにありません。
でも、次回は渦巻き島に出発するので、もうすぐルギア様に会えるかと思います。
因みに、ミカンさんが話しているトレーナーは金銀水晶時代の主人公さん。設定ないけどな!