早朝。
はアサギシティの浜辺にいた。まだ完全に日は海から出ていない。
予定よりも早い出発ではあるが、ルギアが渦巻き島にいるという確証を得たにとっては早いとはいえない。
むしろ、昨日の時点で出発すると言い出さなかったのだからそれで十分だ。
大きなあくびをひとつしてからはどんっと前足で地面を踏みつけて気合を入れる。
とりあえず、から今回会おうとしているポケモンはかなり気難しく、
おそらくはエスパータイプのポケモンだろうと聞いている。
気を抜いてかかってはを危険なめにあわせることになり、さらに自分たちの首も絞めることになる。
それだけは勘弁願いたいは「っしゃ!」と気合の掛け声を上げた。

 

『移動中も気を抜くなよ』

 

そう一言残しての横に控えていたはボールの中へと戻っていく。
がボールに入ったことを確認してへと視線をやる。
その意味を理解しているが自分の背に乗りやすいように身をかがめた。
に「ありがとう」と声をかけての背にまたがる。
そして、が完全に自分に乗ったことを確認するとはばさりと翼を羽ばたかせる。
それによってを乗せたの体はふわりと浮かび上がると、
もう一度は強く翼を羽ばたかせて空高く舞い上がる。
前を見据えて自分たちが向かうべき方向を選択する。

 

『よっしゃ!いくぜ!』
「うん」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
海底にある洞窟なのだから当然のように空気は湿ったもので、さらに潮気を含んでいた。
あまりは海に慣れ親しんではいないせいかこの塩辛い空気が苦手だったが、
人間とはよくできたもので、数日間海の近くで生活したおかげですっかりはこの空気に慣れた。
横にを従えては渦巻き島の洞窟を進んでいた。
予想通りにこの洞窟で出現するポケモンはズバット種や水ポケモンたち。彼らに対抗するにはが適任だった。
目的が修行でもポケモンゲットでもないたちは、余計な戦闘を避けるためにスプレー系のアイテムを使っている。
おかげでほとんど野生のポケモンたちからバトルを挑まれることはなく、順調に進んでいくことができた。
が、入り口が4つもあるような洞窟なのだからその広さは莫大なもので、
予想通りに1日や2日篭ったところで終わりそうにはなかった。
もちろん、それはたちも端から覚悟していたことなので、
誰一人としてそれに対して文句を言うことも、そんな表情を浮かべることもしなかった。
だいぶ奥まで進んできたところでは自分のポケッチを見て今日の捜索をここで打ち切ることにした。
本来であれば安全を考えて洞窟の外でキャンプをするべきなのだが、相当奥まで進んできたという認識があり、
またここまで戻ってこなくてはいけないというのが大変に思えた3人は満場一致で洞窟内にキャンプを張ることにした。
休めそうな適当な場所を見つけてテントを張り、夜営の準備をする。
それが終わったところでやっとは適当なところに腰を下ろした。

 

「ふぅ…、だいぶ進んだね」
『まぁ、朝から篭ってるからな。……ふぁ〜…』

 

が眠たそうにあくびをする。
朝からを乗せて海上を飛び回ったのだ。疲れて当然だろう。
そんなを思ってはとととっとのそばに近寄り優しく彼の頭をなでた。
の優しい手にの心は癒されていく。ついつい表情が緩み微笑んでしまう。
だがそんなときに不意にと目があう。するとは意味ありげにニヤリと笑う。
それが意味するところを理解しているはすぐさま表情を不機嫌そうなものに変えた。

 

『お、お前を乗せて飛んでくれた俺にちゃんと感謝しろよ!』
「もちろん」

 

そう言ってを相変わらずなでる。
は照れくさそうにから顔を背けて不貞腐れたような表情を浮かべた。
そんな様子を見ていたは気づかれないように「ぷっ」と笑う。
赤焔たちのいない今、それほどに照れなくてもいいだろうにと思いながら不意に感じた空腹をに伝えた。

 

「じゃあ、晩御飯にしようか」

 

に言われては思い出したように食事の準備を始める。
といっても、簡単な保存食とドライタイプのポケモンフードを皿に盛るだけなので大した作業ではないのだが。
てきぱきと作業をこなして準備を終えたは「はい」との前にそれぞれの食事を出す。
そして、自分も適当な場所に腰を下ろして食事を前におくと、手をあわせて「いただきます」と言った。
それに倣うようにしてたちも頭を下げてから「いただきます」と言って食事を始めた。

 

『ん?これ、店で買った高いやつか?』
「うん、そうだよ。美味しい?」

 

いつもと違うポケモンフードの匂いと味にに問うと、の言葉を肯定してから、質問を投げかける。
よほど今回買ったポケモンフードに興味があるのかその目には期待感がある。
どう答えたものかとに視線を投げるとはコクリとうなずいた。
どうやらと同じ意見らしい。
「ふむ」と一言もらしてからに答えを返した。

 

『微妙』
「…あれ?」

 

の言葉に「美味しい」という答えが返ってくるだろうと思っていたは不思議そうな声を出した。
品薄になるほどの大人気商品なのだから、当然美味しいのだろうと思っていたが、そうでもないらしい。

 

『多分、既製品の中では美味いんだろうさ』
『だな。でも、の作った飯と比べたら美味くはない』
『これを食べて美味いと感じている連中が哀れだな』

 

2体の意見にはキョトンとするが、
よく聞いてみると2体が物凄く自分の配合したポケモンフードを褒めていることに気づいて急に照れくさくなった。
母親に習って幼い頃から手伝っていたポケモンフードの配合。
それなりにこだわりを持っていただけにこれだけ褒められるのはとても嬉しかった。

 

「ありがとう、2人とも。すごく嬉しいよ」

 

照れくさそうに微笑んでは2体に感謝の気持ちを述べる。
まさかが照れるとは思っていなかった2体は少しキョトンとしたが、割とすぐに言葉を返してきた。

 

『お、お前が俺たちのために作ってる飯が、万人のために作られてる飯より美味いのは当然だっつーの!』
『もう少し自分の腕に自信を持ってもいいと思うぜィ?』

 

2人の返答を聞きながらは嬉しそうに笑い、楽しく食事を勧めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■いいわけ
 きっとこの食事の場にフライゴン♀がいたら、ボーマンダ♂を亡き者にしてるんだろうなと思います。
今回、ついにルギア様の話題がほぼ上がってきませんでした。作者は何をしたいのでしょう。
でも、とりあえず作者はやりたいことができた気がするので割と満足しています。