明日も早くからこの洞窟を捜索する予定でいるたちは、
明日は水辺周辺を重点的に調べるという方針を立てて明日に備えて早めに寝ることにした。
特別、危険性は感じられないということでたちはボールの中で寝ることになり、
2体はさっさとボールの中に入って疲れを癒すために眠りについた。
も歩き回って疲れたのか眠気に襲われる。
小さなあくびをひとつして「寝よう」と思ってテントの中へと入ろうとした時だった。

 

「………――っ」

 

言葉では言い表すことができない衝撃。
ただひとついえるのは、不快なものではないと言うこと。
あまりの衝撃故に今のに冷静な判断を求めることはできない。
とりつかれたように駆け出す
今、彼女を突き動かしているのは本能だけだった。
いかなければならない、応えなければならない。そんな気持ちがをただ前に進ませていた。
本能に任せるがままには進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
不意にはっとして我に返ったの目に飛び込んできたのは大きな滝。
力強く打ちつける水を見ては少し落ち着いた。
自分の不可解な行動を不思議には思ったが、考えて答えが出るとは思っていない。
昔から本能と直感に任せた行動をとることが多い
故にこの行動も今のにとっては発作のようなもので、毎度のことと言えば毎度のことなのだ。
もう一度滝を見てはテントへ戻ろうと滝に背を向けた。
だが、は不意に背後に感じた気配にはっとして慌てて振り返った。

 

「……っルギア…」

 

忘れるはずもない銀色。
巨大な体にすべてを見透かされそうな眼。
は息をするのも忘れて自分が幼き日に見た銀に眼を奪われた。
神々しい銀色の翼は昔と何一つ変わってはいなかった。
出会えたことも嬉しかったが、彼が記憶の中にあるあの姿と何一つ変わっていないことが嬉しかった。
だが、不意にはこれからの自分の身の振りようを考えて戸惑った。
正直なところ、はルギアの姿を見ることができただけで満足だ。
なのでもうこのまま帰りたいところなのだが、
この状況からするにはルギアによって導かれてここにいるわけで、
ということはルギアはに何か用があるということになる。
なのにルギアの言葉も聞かずに背を向けるのは果てしなく失礼なことだろう。
ルギアに声をかけてみたいという衝動に駆られるが、
伝説のポケモンに対してただの人間であるが気安く声をかけていいものだろうか?
ルギアを前にしてさまざまな考えがの頭の中を駆け巡った。

 

『この島を取り囲んでいる渦潮は私が人を拒むために作り出したものだ』

 

何の突拍子もなく語りだしたのは銀色――ルギア。
彼の声を聞き、考え事をやめてはルギアの言葉を聞くことに集中した。

 

『だというのに、その渦潮を越えて我が牙城に乗り込んできたのなら、それなりの覚悟はできているのだろうな』

 

穏やかだったルギアの目に強い殺意が宿る。
ある意味で予想通りの反応では動揺することはなかった。
こうなることは端から想像していた。だから覚悟もできていたし、言う言葉も決めていた。

 

「覚悟はできています。でも、ポケモンたちは見逃してあげてください」

 

自分が自分の我侭で果てるならばそれは道理。
しかし、たちは違う。ただ、の我侭に付き合って同行しただけで彼らに罪はひとつもない。
故に彼らにまで罰が下るのは間違っている。
ポケモンであるルギアだ。
ポケモンを――同胞を殺める真似はしないだろうが、それでもはそこだけは譲れなかった。

 

『自分が身代わりになろうとでも言うのか?』
「いいえ、彼らが罰の受ける理由はないということを確認したかっただけです」

 

揺るがないの意思。まっすぐにルギアの眼を見つめている彼女の瞳がそれを物語っている。
それを見てルギアはふっと眼を伏せる。そして、瞼を開いてルギアはを見据えて言う。

 

 

 

『このバーカ』

 

 

 

時が止まり、思考が停止する。
が、すぐにそれではいけないと気づいて今起きたことを整理する。
とりあえず、伝説のポケモンと言われるルギアに「バカ」と言われた。
確かに、長い時を生きた彼から見ればは愚かなる人間――馬鹿者だろう。
しかし、ルギアの言うこの「バカ」という言葉には別の意味が込められている気がした。

 

『この俺がわざわざ好きでもねェ人間に会いに来るわけねェだろ!
もっと言うとだな、放っておきゃあ死ぬ人間なんぞをわざわざ殺す趣味はねーよ』
「は、はぁ…」
『伝説のポケモンである俺様とこんな神秘的な場所で出会ったんだぞ?
もうこれはバトルしてゲットするしかないだろっ!!』

 

ぐいとに顔を近づけて言うルギアにさすがのも困惑する。
ゲットするつもりなど微塵もなかったなのだから、どう転んでもゲットという選択肢はあがらない。
それに、今のは完全な丸腰なのだからバトルなんてできるはずがない。
興奮してなにやらポケモンと人間の出会いの浪漫について語っているルギアをとめては事情を説明する。
するとルギアは落ち着きを取り戻すとを見てまた言葉を投げる。

 

『どバカ!!』

 

予想通りの言葉には苦笑いを浮かべる。
しかし、そんなを気にも留めずにルギアは頭を抑えて宙で地団駄を踏む。

 

『あーもー!最初からやり直し!!今のはNGっ!TAKE2いくぞ!』
「ええっ…!?」

 

に背を向けて去ろうとするルギア。
しかし、突如ぴたりと彼の動きが止まる。
どうしたのだろうとはルギアをよく見ると、彼はなぜか小刻みに震えていた。
ルギアの体に何か異変でも起きたのかとは心配になってルギアに声をかけよとしたそのときだった。

 

『やっぱ、辛抱たまらーんっ!!』
「ひぃゃあぁぁ!?」

 

銀色の巨体が無遠慮にめがけて飛び込んできたかと思うと、
次の瞬間にはきつく抱きしめられてしまい、思わずは悲鳴を上げた。
しかし、興奮のあまりにルギアにはの悲鳴は聞こえていないようで、
今のルギアの頭の辞書に遠慮という言葉はないらしい。

 

もう無理だ!もう我慢ならんっ!これ以上辛抱できるか!
俺が何年お前のこと待ったと思ってんだ!?10年以上だぞ!?10年以上!
もうこの際ゲットされたときのエピソードなんざかまってられるか!
どうでもいいから俺をゲットしろぉおお!!
「ボール…持って、ない…です……っ」

 

そこでの意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
『ぁんのバカ!どこ行きやがった!!』
『水上を移動できねェからそう遠くへは行ってねェだろうが…』
主の不在に気づいたは焦ったようにボールから飛び出し、テントから出てあたりを見渡した。
だが、の姿はおろか気配すら感じられない。も馬鹿ではない。
夜の洞窟がどれほど危険かは承知しているはずだ。
ということは、たちに何も告げずに散歩に出かけたとか、探索に出かけたということは考えにくい。
となると、考えられることはひとつだ。

 

『どっかの悪趣味なポケモンが連れ出したとしか考えられねェな』
『おそらくエスパータイプのポケモンだろうから――』
『『ルギア』』

 

2体の結論は違うことなくそこに至る。
大変なことになったと一瞬は渋面になるが、それよりも早くを見つけ出し、
そして助け出さなければならないと決意を固めた2体は行動を開始しようとする。
だが、それは銀色の巨体よって阻まれてしまった。

 

『(コイツが…っ!)』
『(冗談だろ!?なんだよこのデカさはっ!!)』

 

ポケモンの世界でもそれなりに大きなポケモンと分類されるボーマンダ。
だというのに、を連れ出したであろうルギアはボーマンダであるでさえ優に超える大きさだった。
この体格の差をなんとして覆そうかと2体が頭を働かせようとしたときだった。
不意にルギアが地に伏せたのだ。
状況が飲み込めない2体は混乱するばかりだが、
ルギアが自分の背を指し示す様子を見て慌てて彼の背を覗き込む。
すると、見慣れた姿が横たわっていた。
特に怪我をした様子もなくたちはほっと胸をなでおろした。
そして、が人の姿を取りルギアの背からを連れ戻す。
彼女の安否を確かめるように顔を覗くと、どことなくは苦しそうな表情を浮かべていた。
気が動転したはルギアを問いただすことも忘れての肩をゆすり名を呼ぶ。
それを何度か繰り返したところで、はゆっくりと目を開けた。

 

……?…もいるの…?」
「全員いるっ、それより大丈夫なのか!?」
「うん……、大丈夫」

 

2体の安心させるようには笑ってみせる。
そんなを見ては呆れたようにため息をつき、は「心配させんな!」と怒鳴った。
自分のことを心配してくれる2体のことを嬉しく思いながらは先程から注がれている視線に目を向けた。

 

『………』

 

の視線の先には憧れた銀色の翼――ルギア。
そっとが手を伸ばすとルギアはゆっくりとの手に近づく。
だが、触れるか触れないかのところでぴたりととまる。
はルギアの目を見てから思い切ってルギアに手を伸ばす。
ルギアの体は温かい。撫でてやると嬉しそうにする姿を見ては嬉しい気持ちになった。
そして、はルギアに言うべき言葉を言った。

 

「ごめんなさい」
『「ええっ――!?」』

 

誰がどう見ても信頼を築いたように見えたのだが、の答えは180度違うものだった。
とルギアの様子を見て色々察したは思わずわけがわからないという声を出した。
そんな2体の様子を見ては「実は…」と話を切り出した。

 

「ポケモンをゲットするつもりなんてなかったからボール系のアイテムは全部置いてきたから…」

 

確かに、ポケモンをゲットするつもりはないのだからモンスターボールは今回の旅には必要ない。
なのだから、がボール系のアイテムを家に置いてきたのは正しい選択だろう。
責めるに責められないの言葉には黙る。
どうしようもない空気の中、「しゃーねーなぁ」という声が聞こえたかと思うと、
パッとの前に見たことのない黒いボールが姿を見せた。
が宙に浮いたボールをとりルギアを見て首かしげる。
するとルギアはふんっと鼻を鳴らした。

 

『昔、俺をゲットしようとした人間が落としてったボールだ。しゃーねーからそれ使え』
「え…でも、それは……」
『この島に落ちてるものは全部俺様のものなの。持ち主がいいっつってんだからいいだろがっ。
それともなんだ?10年以上待たせておいてまだ待たせんのか?あ?』

 

話を推し進めるルギアを見ては伝説とか、神とは程遠いルギアの口調にいささか戸惑った。
帝透もそのとぼけっぷりはどう見ても神話に残るようなポケモンには思えないが、
口調は割りと気品があり、厳格さもある。
が、このルギアにはそれが微塵も感じられない。口調だけで判断すると、物凄くチンピラだ。
ルギアというポケモンの立場と、彼の性格と人格のギャップについていけずに、
置いてけぼりにあっているを無視してルギアはを急かすように歩み寄る。
は一瞬躊躇ったが、勇気を出してボールを放る。
ボールはルギアに触れると、あの巨体をあっという間にその小さい形に収めた。
2〜3度ボールが揺れた後、カチリという音がポケモンを完全に捕らえたことを知らせる。
まったく動かなくなったボールをは拾い上げ宙に放る。
ぽんっとボールが開いて再度大きな巨体が姿を見せた。

 

「これからよろしくね、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■いいわけ
 やっとこルギア様ご登場。しかし、見ての通りルギア様は威厳の「い」の字もないお方。
最初はクール系だったのに、気付いたら阿呆の人になっていました。……あれ?どっかの白い人と同じパターン…!?
これからうちのルギア様の阿呆っぷりを書いていけたらと思います。阿呆っぷりを。