以前、は物凄い悪夢を見た。それはもう物凄かった。この世の終わりに近かった。正直、あんな夢はもう二度と見たくない。
あんな夢をもう一度見たら胃が潰れてしまう。
地面に叩きつけたトマトのように潰れてしまう。
嫌だ。そんな惨めな死に方はしたくない。だが、を待ち構えている運命は過酷で、残酷なものだった。
竜達の再会
「〜、パパだよ〜!」
「うん」
「ちゃんと好き嫌いせずご飯食べてるか?お母さんのいうこと聞いてるか??」
「うん」
の電話の向こうで話しているはの父親――リオ。
久々に可愛い娘の声を聞くことができて嬉しいのかテンションが若干おかしい。
が、これは毎度のことなのではまったく気にしていない。
むしろ、いつもどおりの父親の姿を見ることができて安心しているくらいだった。連続で質問される他愛もない問いのすべてには律儀に答えを返す。
傍で阿呆な父子の会話を聞いては呆れていると、不意にの後ろに人影が増えたことに気づく。
「あなた、無駄な電話代使うならお小遣い減らしますよ?」
「ええっ、これ以上!?」
の後ろに立ってそう言ったのはリオの妻であり、の母親である女性――ヒイナ。
笑顔で語るヒイナではあるが、その額には青筋が浮かんでいるので、ご機嫌を損ねているのは一目瞭然。
本当にリオはヒイナの機嫌を損ねるのが上手いなーと思いながらは3人の会話に耳を傾ける。
「今すぐ本題に入るからこれ以上お小遣いを減らすのはご勘弁ください!」
「ならどうぞ」
「はい!」
びしっとヒイナに向かってリオが敬礼をすると、リオはに視線を向けて語り始める。
「実は、俺のポケモンたちが復帰したからにみんなを返そうと思って!」
「ぶーっ!?」
予想外のところから反応が返ってくる。
リオの言葉に大きな反応を示したのはヒイナでもなけれどでもなく、。
どうやら口に含んでいた紅茶を思い切りよく噴出したらしい。
の反応に驚いたたちは固まっているが、
ヒイナの対応は冷静なものでキッチンから布巾を持ってきて紅茶で水浸しになったテーブルを拭いていた。そんなヒイナに影響されてかリオも正常な思考能力を取り戻したのか、
に「いつでもいいからおいで〜」と一言残して通信をぶつりと切るのだった。
特に何の用事もなかったは早速父親が暮らしているマーキャ地方はギンシュシティにやってきていた。リオから連絡を受けたときに紅茶を噴出したは、それはもうこのギンシュシティに来ることに反対したが、
がどうしても行きたいと言うので、の願いに負けてこうして無事にギンシュシティに到着していた。何故そうまでしてがギンシュシティに行くことを拒むのかが気になっては直接本人に聞いてみたのだが、
物凄く不機嫌そうな表情で睨まれたので「なんでもないです」とついつい言葉を返してしまい、
最終的に理由は聞けずじまいに終わった。一度はリオに会うのが嫌なのかと思ったが、リオは優しい性格をしており、非常に人畜無害な人間だ。親バカで多少トラブルメイカーな部分はあるが、それでも会いたくないと思われるような人間ではない。
「うーん」とがうなりながら頭をひねっていると、不意にが「あ」と声を漏らす。
顔を上げてみるとそこには満面の笑みを浮かべて手を振りながらこちらに近づいてくるリオの姿があった。
「会いたかったぞ〜、〜」
顔をあわせるやいなやぎゅーっとを抱きしめるリオ。
に抱きついた男は誰であろうと殴り飛ばすとだが、流石に父親であるリオには手を出さない。
の父親だから――というのもあるが、が父親を尊敬しているため、
彼に対して酷い仕打ちをするとに嫌われる可能性があるというのが一番大きい。
きっと、が一瞬でも嫌な顔をしたら彼女たち躊躇いなくリオを殴り飛ばすのだろう。ひとしきりと触れ合ったリオは満足そうに「ふぅ」とため息をついた。
「お父さん、みんなは?」
「が呼んだらみんな来てくれるよ。きっと」
の頭を撫でながらリオは優しく言う。
するとは嬉しそうに「うん」とうなずき、すぅっと息を吸い込んだ。そして声を張り上げる。
「みーんなぁー!!」
リオが管理しているという広いフィールドにの声が響く。
数秒静寂が支配したかと思うと不意に地響きが聞こえる。
「なんだ?」と思いながらがあたりを見渡すと、に目が留まる。表情をこわばらせ、自身の最も誇るべきである武器――爪をぎらぎらと輝かせている。
ただならぬの殺気にはこれから尋常ではないことが起きるのだと思った。青ざめながら顔を上げると先程まで存在しなかった場所に土煙が立っていた。気のせいか地響きが大きくなっている気がする。
いやこれは、たぶん気のせいじゃない。
『『『『ー!!』』』』
そう声を上げながら押し寄せてくるのはドラゴンタイプのポケモンの一団。
あまりに恐ろしい光景には声にならない叫びを上げた。だが、にとってはそれは嬉しい光景のようでぱぁっと表情を明るくした。本当に時々はの感性がよくわからなくなるときがある。
まぁ、今回は懐かしいポケモンたちと再会できて喜んでいるということにしよう。うん、そうしよう。ポケモンたちが全力疾走で駆けてくる。
このままではあのドラゴンポケモンたちに突進されてぶっ飛ばされるのではないかと思ったが、そうはならないらしい。
とんっとが地を蹴ったかと思うとの姿は人型からフライゴンへと変わる。
そして、力を込めた腕を思い切り振り下ろした。の爪に宿ったエネルギーが衝撃波を生み、大地を削ってドラゴンポケモンたちの一団に直撃する。
「ギャー!」という声が聞こえたが、どうすることもできない。
今下手に動くと誰彼構わずが攻撃しそうだからだ。
『そこぉっ!!』
「ぅおぎゃー!」
微動だにしなかったはずの。なのに振り下ろされたの爪。
ギリギリのところで直撃は避けたが、先程までが立っていた場所には亀裂が走り、見るも悲惨な光景になっていた。恐怖のあまりにあとづさろうとしたであったが、不意に腰を下ろしている地面の異変を感じ取る。
不思議に思って地面をよく見てみると少し地面が盛り上がっていることに気づく。
その瞬間にの中で最悪のシナリオが浮かび上がる。しかし、そのシナリオはゆっくりと動き出しているようだった。どうしようもない自分の不運さには自虐的な笑みを浮かべる。
そして、次の瞬間だった。は飛んだ。跳んだのではない。飛んだのだ。いや、正しくはぶっ飛ばされたのだ!
「あぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜」
フェードアウトしていくの声。
いつもはのことなど一切心配しないでさえも「ー!?」と声を上げた。しかし、がぶっ飛ぶことになった原因は、のことになどまったく気づいていないようだった。を遥か彼方までぶっ飛ばしたのは地中に潜っていた一体のガブリアス。
の腕を掴んでいるところを見ると、のターゲットはこのガブリアスだったのだろう。
睨みあうとガブリアス。だが、不意にが一歩前に歩み出た。
「お久しぶりだね、」
『〜ッ!!』
に声をかけられ、がばちょとに抱きついたのはガブリアス――。
雰囲気から察するに、おそらくはがコキアケで暮らしていたときに仲間にしたポケモンの内の一体なのだろう。
そしてそれと同時にが会いたくなかったポケモンでもあるのだろう。体全体で嬉しさを表現する。
それを小さな体では受け止めて、同じく再会の喜びを体いっぱいに表した。数年ぶりの再会なのだ。しばしの間はこの状況は許してやるべきだろう。
本当は今すぐにでもをぶっ飛ばしたい衝動にはかられたが、
の悲しむ顔も容易に想像できて「くっ」とこらえた。が、我慢の限界を迎えたものがいるらしい。
不意にとを照らしていた太陽の光がひとつの影によって遮られる。
2人はそれを特別気にしなかったが、不意に突き刺さった殺意には咄嗟にから距離をとった。ドゴォッ!!その次の瞬間、が元いた場所には一体のカイリューがいた。しかも、カイリューの拳は大地にめり込んでおり、
に対して攻撃を放っていたということは火を見るよりも明らかだった。恐ろしい状況に面々が固まっている中、が嬉しそうに口を開く。
「?」
『そうだよ、。キミのだよ』
地面から拳を引き抜きカイリュー――は優しい笑みを浮かべてに擦り寄る。
は擦り寄ってきたをぎゅっと抱きしめて嬉しそうに笑った。しばし、この時間が続くのかと思ったが、予想以上の速さで2人の時間は終わりを告げる。
『!あたしとの感動的な再会に水を差すとはどういうことよっ!!』
『抜け駆けしたのはキミが先だろ?そんなキミに文句を言われる筋合いはないよ』
『先手必勝!ちんたらしてるアンタが悪いのよ!』
『ならこれは、ボクを出し抜けるような策を講じなかったキミの無能さの結果だよ』
今にも戦いのゴングが鳴りだしそうな状況。
このままこの2体がバトルをはじめたらこのフィールドが焼け野原になってしまうのではないかと危惧したリオは、
に2体を止めるように言おうとするが、の笑顔を見てつい言葉を止めた。
『〜!』
『、、、ッ!!』
「!それに、も!」
一足遅れてやってきたのはギャラドスのとキングドラの。
2体ともがに再会できたことが嬉しいようで無邪気に喜んでいる。
もちろん、も2体に再会できたことを素直に喜んでおり、愛しそうに2体を抱きしめていた。そんな様子を見て黙っていられないのが――
『離れれッ、!!』
『うん、二人は離れて、は土に還っておくれ』
『誰が還るかッ』
言うまでもなくとである。
ずかずかとの元へ近づきながら2体はとを威圧する。
しかし、やっと再会できたとそう簡単に離れてたまるものかと、は口を尖らせる。
『2人ばっかりずるいよ!なんでボクらばっかり我慢しなくちゃいけないの!』
『年功序列!何事も年上優先!』
『な、なら、私だって…!』
『ドラゴンポケモンの世界は実力主義だよ?』
たちの言葉に屁理屈を返してとはを独占しようとする。
だが、いい加減に我慢の限界を超えそうなポケモンがいた。が、これは言うまでもないだろう。
『ガァッ――!!』
言葉にならないほど積もりに積もったの怒りは咆哮となって発散される。
流石にはフライゴンなので、時の咆哮にはならなかったが、かなりの迫力ではあった。先程まで強気だったともすっかり怯んでしまって思わずから距離をとった。しかし、渾身の咆哮も、
彼女と付き合いの長いこの2体にはそれほどの効果を発揮していないようだった。
『へっ、屁でもない』
『久々とはいえ、慣れてるからね』
『アンタたちいつまでにベッタベッタしてんのよ…!』
わなわなと震えながら尋ねる。
顔を見合わせたとは、不意にに抱きつくと返答を返した。
『『永遠』』
『死んでしまえ』
冗談を一切含まないの言葉。完全に本音だ。当然、2体は「やなこった」「お断りだよ」と言葉返す。
そうなると言葉では終止がつかなくなるわけで、即刻は鉄拳制裁に方針を変更する。
そうなることも完全にお見通しの2体は焦った様子もなくの攻撃を避けるのだった。と、そしてがのそばから離れたのを見計らって、たちが呆れた様子での元へやってきた。
「がここへきたくなかった理由がやっとわかったわ…」
「も照れ屋だよね、みんなに会えて嬉しいはずなのに」
「いや、本気で嫌ってるように見えたけど…?」
慣れてしまったが故に感覚が鈍っているのか、の言葉に対するの回答はぶっ飛んだものだった。しかし、の言葉から察するに、もうあのドラゴンポケモンたちの関係は形を変えることはないのだろう。
要するに、改善するように働きかけるだけ無駄。あれ対抗するには慣れるしかないということだ。それを悟ったたちはすぐに割り切った。
「…あの3人が暴れてるうちにぶっ飛ばされたでも探しましょ」
暴れまわるドラゴンポケモンたちを一瞥して、はを探そうと提案する。
するとは「あ」と思い出したように声を上げるのだった。
■いいわけ
溺愛軍団の登場です。みなさま、どこまでも、どこまでもを溺愛しております。
的な人が2人ぐらい増えたと思ってくださればOKです。要するに、ボーマンダ♂の生命の危機が爆発的に上昇したということです。
みなさんで大好きっぷりをアピールして、みなさまをドン引きさせること間違いなしです(キッパリ)