どうしてこうなったのか――それはタマキの方が聞きたいくらいだった。
 テンガン山に登ったらテンガン山の主である伝説のポケモンたちがいて、
なんの因果かそのうちのディアルガの主人が自分の姉弟子の娘。
そこから門番の1人であるリーシャンの勧めでディアルガたちに会っていかないかという話になり、
タマキに興味を持ったらしいディアルガたちはタマキとの面会を承諾し――
現在、タマキはリーシャンの案内でディアルガたちが待つ槍の柱へ向かって歩いていた。
 伝説のポケモンに出会える――それはタマキとしては願ってもないこと。
伝説のポケモンたちは、普通のポケモンたちとは違う神々しい美しさや逞しさを持っている。
それを自分の目で見ることができるというのは、
ポケモントレーナーとしても、芸術家としても、とても価値のあることだ。
 ――が、

 

「(なにか…騒動に巻き込まれなければいいが……)」

 

 タマキの持論として、「良い事があった後には必ず悪い事が起きる。逆も然り」というものがある。
その理論からいくと、伝説のポケモンたちに会えるという「良い事」の後には、
なんらかの「悪い事」が起きるということになるのだ。
 騒動に巻き込まれることが面倒くさい――そんな気持ちもタマキの中にはある。
だがそれよりも、誰かが傷つく可能性のある「騒動」が起きてしまうこと自体がタマキは嫌なのだ。
――とはいえ、タマキの知らないところで「悪行」が横行するというのも、また胸糞悪い話ではあるのだが。

 

『この先を真っ直ぐ進めば、槍の柱――ディアルガ様とパルキア様がお待ちです』
「…ああ、ありがとう」

 

 ここまで案内してくれたリーシャンにタマキが簡単な礼を言うと、
リーシャンはぺこりと小さく頭を下げると、テレポートを使って一瞬にしてその場から消えてしまった。
 1人ポツンと残されたタマキ。
今更、やっぱりやめます――なんて選択肢は選べない以上、前に進むほかタマキには選択肢はない。
未だに頭の中を色々な想像がめぐっていたが、それを一瞬で頭の中から消し去ると、
意を決してディアルガたちが待つという槍の柱へ向かってタマキは足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洞窟を歩き続けていたタマキの目を外の光が襲う。
射すような明るい光に、タマキは思わず腕で目を覆った。
ゆっくりと目が光に慣れてきたところで、タマキは光を遮断していた腕を下ろし、
自分の前に広がっている世界に目をやった。
 白味の強い石畳。
そして、その石畳と同じく白味の強い石の柱。
おそらく、これがテンガン山山頂にあるといわれている古代遺跡――槍の柱。
 何のために作られた場所なのか――この遺跡を始めてみたときには分からなかったが、
遺跡の奥へと進むうちにその姿を露にしたシンオウ地方に伝わる伝説のドラゴンポケモン――ディアルガとパルキアの姿に、
これは彼らがこの場所に光臨するために造られた場所なのではないか――という仮説がタマキの中でたった。
 しかし、そんな仮説どうこうを考えている場合ではない。
タマキはすでにディアルガとパルキアの前に立っているのだ。
自分の考えどうこうよりも、まずはディアルガたちに対して最大級の敬意を払うことがないよりも大切だった。
 焦りはせずに、だがゆっくりではなく、綺麗で無駄のない動きでタマキはディアルガとパルキアの前で跪く。
そして、ディアルガとパルキアが話し出すのはタマキは黙って待った。

 

『顔を上げなさい、マーキャからの旅人よ』

 

 威厳と神々しさを持ってはいるが、威圧感のない優しい声。
それに呼ばれてタマキはゆっくりと顔を上げた。
 自分の前にいるのはとてつもなく巨大なポケモン。
普段自分が目にしている大きいとされるポケモンたちを小さいと感じてしまうほどに彼らは大きい。
 だがそれも当然か、彼らは古の時を生きた伝説のポケモンなのだ――
人間、ひいては普通のポケモンの基準で考えること事態が間違っているのだろう。
 常識を超えた彼らの姿に、タマキは一瞬見入りそうになってしまったが、
それをぐっとこらえて口を開こうとした――が、それよりも先に彼らの方が先に言葉を続けた。

 

『かしこまる必要はない。これは謁見ではないからね』
「……よろしいのですか?」
『ああ、かまわない。私は君をここに「キラの知人」として招いたのだから』

 

 そう言うと、ディアルガはポケモンの姿から擬人化の姿に変わる。
そして、彼と同様に擬人化の姿をとるよう促すかのように、その姿のままパルキアに視線を向けた。
 パルキアは若干嫌そうな表情を浮かべたが、
不意に重くなったディアルガの雰囲気にビクンとその巨体を震わせると、すぐさま擬人化の姿に変わった。

 

「さぁ、こちらへおいで。
――ところで、君は紅茶とコーヒー、どちらが好みかな?」

 

 パルキアに向けた重い雰囲気から一変して、和やかな調子でタマキを導いてくれるディアルガに、
タマキは心の中で苦笑いしながら、「紅茶を」と答えてディアルガの後に続くのだった。