思いがけない出会い――
ディアルガとパルキアとの邂逅から早数日――マルクスに急かされながらも寄り道を繰り返し、
タマキは遂に最終目的地であるキッサキシティに到着することができていた。
 ビロウドタウンとはまた違った極寒地の――キッサキシティ。
身を刺すような寒さはないが、視界を奪う猛吹雪は寒さを象徴するもの。
その雪の粒を全身に浴びながらも、タマキはなんとかかんとかキッサキシティのポケモンセンターへ到着し、
少しの休憩を挟んでからキッサキジムへと足を運んでいた。
 正直なところ、タマキにはキッサキジムへ寄る予定はなかった。
だが、タマキが立ち寄りたいと思っていたキッサキ神殿に入るためには、
神殿の守護役であるキッサキジムのジムリーダーの許可が要る――
その事実をポケモンセンターのジョーイから聞いたタマキは、
仕方なくキッサキジムに立ち寄ることにしたのだった。
 キッサキジムのジムリーダー――スズナ。
タマキも彼女のことはまったく知らないわけではない。
同じ氷タイプの使い手――というのが一番の大きな理由だが、
お互いにジムトレーナーだった時代のジムリーダーたちが親しい関係にあり、
何度か交流戦でバトルをしたことがあったのだ。
 しかし、お互いに知り合っているからといって、必ずしも親しいわけではない。
…まぁ、だからといって仲が悪いというわけでもないのだが――

 

「ターマちゃ〜んっ!!」
「………」

 

 大声でタマキの事を呼びながら、
タマキにほぼタックルと言っていい感じで抱きついてきたのは――スズナ。
 そう、このスズナという人物は、
非常に人懐っこくスキンシップ過多でテンションも高い――
タマキが最も苦手とするタイプの人種なのだ。
 幸い、嫌い――というわけではなく、
無駄にベタベタとスキンシップを取ってくるスズナが、この上なくタマキにとっては苦手というだけ。
彼女とのやり取りはこの上ない苦痛というわけではなく、我慢できる程度ではあるが――
できることなら一度も会わずにシンオウ地方を後にしたいとタマキは考えてはいた。
 だが、タマキの目的のひとつであるキッサキ神殿に入るためには、
キッサキジムのジムリーダー――このスズナからの許可が必要不可欠。
となると、タマキが目的を果たすためには、
スズナ流の挨拶に耐え抜くことは、なにがなんでも絶対だった。

 

「もう!一言連絡くれればちゃんと迎えに行ったのに!」
「……そこまでしてもらう必要はない」
「えーなんでー?遠慮なんてしないでよ!私たちの仲じゃない!」

 

 タマキの手を取り、ニコニコと笑顔を浮かべてそう語るスズナ。
しかし、それに対してタマキといえば、若干迷惑そうな表情を浮かべてスズナから微妙に視線を逸らしていた。
 確かに、同年代で同じタイプを専門とするジムリーダー同士だ。
普通のジムリーダー同士よりは通じる部分もあって親しい間柄と言えば間柄だ。
さらに、お互いに幼い頃を知っているので、それも親しい間柄と言える部分ではある。
 だがしかし――どうにもこうにも、
タマキにとってスズナという人間が苦手な人種であることには変わりはなく、
完全には腹を割れない部分があることもまた事実だった。
 スズナも、タマキの態度に愛想を付かせて諦めてくれればいいのだが、
それでもまったく諦める様子を見せることはなく、
こうしてタマキが嫌な顔をしようがお構いなしにタマキに近づいてくるばかりだった。

 

「んで、タマちゃんの用事はキッサキ神殿でしょ?なんだったら、私が案内してあげよっか?」
「……だから、そこまでしなくていい」

 

 ため息を吐きタマキがスズナにそう返すと、スズナは「も〜」と不満げな表情を見せる。
おそらく、遠慮するなといった矢先にタマキが遠慮しているとでも思ったのだろう。
――実際のところ、タマキは一切の遠慮などしていないのだが。
 しかし、スズナは小さな不満の声は漏らしたものの、
それ以上の不満を漏らすことはなく、不意に「はい」と言ってタマキに一枚の書類を手渡した。
だが、それが何の書類なのか分からなかったタマキは、
少しの間を空けて「これは?」と普通に尋ねてしまった。

 

「あのさ〜、この状況からいって、キッサキ神殿への通行所しかないと思うんだけどな〜!」
「……ああ」
「はぁ、タマちゃんはこういうところがなければサイッコーにイケメンくんなんだけどなー」

 

 「やれやれ」といった様子で肩をすくめて首を左右に振るスズナ。
彼女が自分に対して呆れていることを察したタマキは、とりあえず「すまない」と謝っておくが、
それがスズナには不満のようで、「もぉ〜…」と言いながら不満げな表情を浮かべた。
 ――が、しかし、これ以上タマキに不満をぶつけたところで不毛と悟ったのか、
スズナは深呼吸ひとつして気持ちを切り替えると、
いつも通りの人懐っこい笑みを浮かべて「あのさっ」とタマキに新たな話題をふった。

 

「明日、うちのジムにスモモっていうトバリジムのジムリーダーがバトルしに来るんだけど、
よかったらタマちゃんもバトルに参加しない?」
「バトル……か…」

 

 最近は、数えるほどしかジム外のトレーナーとバトルをしていないタマキ。
他地方のジムリーダーと手合わせできるというのは貴重な経験だが――
いかんせん現在の彼の手持ちがポケモンたちではまともなバトルはできそうになった。
 主砲であるミェーチはヒイナの家に預けたままで、
現在タマキの手持ちはユキカブリのマルクスと、バトル要員ですらないマグカルゴのシレームの2体だけ。
とてもではないが、ジムリーダー相手にまともなバトルはできそうにもなかった。

 

「…悪い、今のメンバーではまともなバトルができない」
「そなの?なら、私のポケモンたち、貸そうか?」
「…………」
「ほら、やっぱり初めて会う人とのバトルって凄く学ぶことがいいじゃない?
それに、うちの子たちをタマちゃんに使ってもらえたら、うちの子たちも学ぶことはいっぱいあると思うんだよねー」

 

 スズナの言っていることにはなかなかに無茶がある。
いくら幼い頃からの知り合い――お互いの手持ちポケモンに関してある程度のことは知っているにしても、
だからといって急ごしらえのパーティーでジムリーダー相手にバトルするには厳しいものがある。
 そこらの一般トレーナーならば、それもどうにかなるだろうが、
ポケモンバトルのプロであるジムリーダーが相手では確実にまともなバトルはできないだろう。

 

「悪いが断る。……まともなバトルができそうな気がしない」
「もう、タマちゃんは気合いが足りないよー」
「…俺は『気合い』なんて、不確かなものに頼るタイプじゃない」
「はいはい、わかりましたー。でも、気が向いたら見学ぐらいには来てよっ」
「……考えておく」

 

 スズナにそう言葉を返して、
タマキは彼女から貰ったキッサキ神殿への通行書を手にキッサキジムを後にしようと歩き出す。

 

 その傍ら――明日の予定に関して、打診しようとしているタマキがどこかにいた。