『へー、あのクニーガ様が修行ーしに行ったのかー』
フリーザー兄妹は口論の末、クニーガは姉であるスノウの元へ修行へ、
そしてスニェークは永久氷樹の森の守護と時々タマキのポケモンとして行動する――という結論に落ちついた。
そして、結論が出るや否や、
クニーガは早々に修行を終わらせてタマキの元へ戻るため、その次の瞬間には空へと飛び立ち、
タマキに「すぐ戻るわ!」と一言残してあっという間にマーキャの地から飛び去って行ったのだった。
『そして、クニーガ様の代わりにお兄様であるスニェーク様が永久氷樹の森を守護をなさっていると…』
『…しかし、それではスニェーク様のお役目は?』
「それは問題ないらしい。……キラがジョウトにいるうちは」
『…?なぜそこでキラが…?』
「事情は俺もよく知らないが――」
スニェークたちが仕える伝説のポケモン――ルギアから、見守るように命じられているキラが、
ルギアのいるジョウト地方を旅している――
なので、無理にキラを見守る必要はない、という事情をタマキが説明すると、
シチートとプリェーチがやや乾いた苦笑いを浮かべた。
『昔から、ポケモンを惹きつける雰囲気はありましたが……』
『伝説のポケモンまでもを惹きつけるとは…』
『そーゆーところはやっぱ、リオに似たんだろーなー』
『そういうことなのでしょうが……それでいいのでしょうか…』
『ポケモンはポケモンってことなんじゃないのー?』
『身も蓋もない統括ですね…』
シチートたちも、キラとの面識はある。
顔を合わせた回数、一緒にいた時間――それは長いと言えるものではないが、
キラの雰囲気によって、シチートたちは普通の人間よりも彼女に心を開いていた。
――そうやって、身をもってキラの雰囲気の良さを実感しているだけに、彼らにも色々思うところがあるようだった。
『つか、それよりさー、ミェーチさんの抜けた穴、どーすんの?』
『だねー、後釜がいるわけでもないし、早めに後任決めないとー』
しかし、それを気にしているのはシチートとプリェーチだけのようで、
それをまったくと言っていいほど気にしていないドスペーヒとマルクスはのんきな様子で新たな話題をふる。
しかし、2人のふった話題は、それはそれでタマキたちにとって重要な問題だった。
『……だったらマルクス、あなたがユキノオーに進化なさい。
そうすれば、能力だけならミェーチ殿の後任に適任です』
『え、オ、オイラ??それはダ、ダメでしょー。だってオイラ、先発で霰降らせるのが役目だし!』
『…ですが、いつまでも「それだけ」というわけにはいきませんよ』
『まぁどっちにしても、新しい仲間をチームに入れるんだろー?』
「ああ、そのつもりでいる」
シンオウ――ヒイナの元へ残してきた
タマキパーティーにとっての主砲であり、リーダーでもあるマンムーのミェーチ。正直、彼が抜けた穴は大きい。
だが、それを覚悟した上でタマキはヒイナの元にミェーチを残してきたのだ。
落胆や戸惑いなどはなかった。
――それに、新たに手持ちに加えようと考えている候補のポケモンは、既にタマキの頭の中にいた。
「タマザラシ――最終的には、トドゼルガを手持ちに加えたいと思っている」
『ぬわにぃー!?』
『お、ドスペーヒとキャラかぶりー!』
『ふむ、いいですね。これで少しはドスペーヒも危機感というものを持つでしょうから』
『…私は……オニゴーリがいいかと思ったのですが……』
「ああ、それは俺も思った。…だが、ドスペーヒのことを考えるとトドゼルガの方が……」
『どこが!?どこがオレのため?!』
「いつも遊びほうけているお前には、いい灸だろう」
やや呆れた様子で、バタバタと暴れるドスペーヒにストレートに言葉を返したタマキ。
気遣いゼロのどストレートなタマキのものの言いように、
ドスペーヒ自身も普段自分が遊びほうけているという自覚があるらしく、更に焦った様子でジタバタと騒ぎ出す。
それをいい傾向だとタマキが内心頷いていると――不意にプリェーチが「では」と改まった様子で切り出した。
『トドゼルガとオニゴーリ、両方を手持ちに加えてはいかがですか?』
『え?6人体勢??』
『違います。パーティーから私が抜けるのです』
「な……プリェーチ…?いきなり…なにを……」
『タマキ様、もともと私という種族はバトル向きではないのです。
ですから、あたな様がもっと高みを目指すため――私は退かなくてはならないのです』
真剣な表情でそう語るプリェーチ。
確かに、彼女の言うとおりデリバードというポケモンは決してバトルに適したポケモンではない。
それでも、ビロウドの地にゆかりのあるポケモンとして、相手の意表をつけるトリッキーなポケモンとして、
タマキは彼女をパーティーに加えていたが――既にプリェーチは自分の役割の限界を悟ったようだった。
まだ、選択の余地はある――そう、タマキは説得したかった。
だが、それが――トレーナーのエゴであることを、タマキは知っている。
そして、いずれ訪れるであろう決断の時の――覚悟は既にあった。
「わかった。オニゴーリも、メンバー候補に入れる。
――だが、お前の後釜が決まるまでは、俺のポケモンとして、最後まで全力で戦ってもらう」
『…ええ、もちろんです。私の誇りにかけ――最後まで、タマキ様のお役に立って見せます』
険しい表情でプリェーチの離脱を認めたタマキに、プリェーチは嬉しそうな微笑を見せた。
これは、ビロウドの氷使いならば、誰しもが通る道。
だがそれを、長年に亘って無意識で避けていたタマキだけに、
自分の離脱に対するタマキの反応がプリェーチは心配だった。しかし、ジムトレーナーからジムリーダーに昇格したタマキは、
自分に課せられた責任を理解し、様々な覚悟ができるだけの人間に成長していたようだ。
『では――その2匹はどこで捕まえるおつもりなのですか?』
『どっちのポケモンも、マーキャではゲットはできないもんねぇ』
「…手間を考えれば、ホウエンに赴くのが一番…だが……」
『?何か問題でも?』
「ホウエンの暑さに耐える自信がないのと、…またクニーガの時のようなことになるかと考えると……」
『ターマキー、それ考えすぎ――』
『だったらやめよう!ここは霰を活かせるグレイシアとかユキメノコとかに!ね!?』
『ドスペーヒ……』
『な、なんだったら!イッシュで有名なツンベアーは?!バイバニラは!?』
よっぽどポジションを奪われることが――いや、訓練に遊ぶ時間を割くことが嫌らしいドスペーヒ。
必死になってタマキがトドゼルガを手持ちに入れることを阻止しようとあれやこれやと意見を上げるが、
それをほぼ聞いていないタマキは渋い表情で「ふむ…」と考え込んでいると――
不意にマルクスが「あ」と思い出したように声を上げた。
『そーいえば、シンオウにどっちもいるみたいだよー?
スズナのタマザラシに出身聞いたらシンオウだ――ぶぼっ』
『おまー!!そんなにオレをリストラしたいのかー!?』
『なんだよー!リストラされないように頑張ればいいだけだろー!』
『バカー!それはお前がキャラ被りするヤツがいないからだろがー!』
ついにはじまってしまったドスペーヒとマルクスの取っ組み合いのケンカ。
ギャーギャーと言い合いながら殴る、のしかかる、頭突くなどなどケンカをする2人。しかし、タマキたちにとって2人のケンカはそう珍しいものでもはなく、
放っておいても問題ないと早々に判断したタマキたちは、マルクスの意見についての検討をはじめていた。
「今更もう一度――と、いうのもなんだが…」
『ホウエンへ赴くことを考えたら、シンオウの方がタマキへ負担は小さいですからね』
『それに、シンオウには知っている顔も多いですから――何かと便利ですし』
「…ただ、協会がなんと言うやら――だな」
若干、優勢なドスペーヒの姿を眺めながら、タマキはポケモン協会への言い訳を考えるのだった。