「は、離せエナ!俺にはもうユイに会わせる顔がない!!」
『安心しろ、お前の頭はきちんと首で胴体と繋がっている』
「本気で離してくれッ!!」
エナがチャモの服の端を咥えてグイグイと引っ張っている。
そのエナの行動にチャモは完全に抵抗の姿勢を示しており、
元の姿に戻っている水にがっちりとしがみついていた。
『チャモ、エナが態々迎えに来るってことは、ユイが心配しているからッス。
早く帰ってあげた方がいいんじゃないッスか?』
『水の言う通りだ。ユイが心配している。
ポケモンとして、パートナーを心配させるのは不味いんじゃないのか』
「…だからなお帰りにくいんだッ!!」
チャモの主張にエナは溜め息をつく。親愛しているが故の無駄な心配。
チャモの場合は「素直」な性格が災いしてなお酷い。能天気に納得して帰ると言えばいいものを――
なんて思うが、これもこれで毎度のこと。なれてしまえばもうどうでもよかたったりする。
エナからすれば要するにこれは、「ガマン大会」のようなものなのだから。
『言っておくが、お前が「帰る」と言うまで俺は離れんからな』
「なら、俺もお前が諦めるまでここから離れん!」
『えぇ〜、それは困るッス。コッチにも予定が――』
「関係ない」
『酷ッ!』
水がチャモに意見しようとするが、チャモはまったく水に対して遠慮がないようで、
水が言葉を言いきるよりも先にきっぱりと無視の言葉を言い放った。
「エナ、今日は諦めた方がいいんじゃないのかな?ユイに似てかチャモも頑固だし…」
ソウキがエナを慰めるように言うが、エナはチャモの服の端を咥えたまま首を振った。
『悪いがそれはできない。こちらも生活がかかっているからな』
『……パーティーにとってそんなにチャモの存在って大きいんスか?』
『違う。食事を管理しているペッパに食事量を減らされる。――劇的にな』
「………」
『………』
エナの予想外の言葉にソウキと水は言葉を失い呆然と立ち尽くす。
しかし、チャモにとっては毎度お馴染みの罰のようで、
なれているからなのか、諦めているのかは計り知れないが、リアクションは薄かった。
『うちの子供たちは今が育ち盛りでな、食事量を減らすわけにはいかない。
――力尽くでもつれていくぞ』
「えぇっ!?子供たちの食事量を減らされるの!?」
『単なるハッタリかもしれないがな』
『チャモ!これは帰るべきッス!
育ち盛りにお腹いっぱい食べられなるのは地獄ッス!!』
エナの子供たちの話を持ち出されチャモの表情が変わり始めた。最も付き合いの長いエナには、多少の無理をさせても心は痛まないが、
まったく関係のないエナの子供たちに被害が及ぶのは、お門違いと言うものだ。
「……わかった。帰る」
『ご協力感謝する』
「ペッパめ…、子供を取引材料にするとは……!」
そのチャモの一言に苦笑いを浮かべるしかない面々だった。