スオウ島の火孔付近の岩場――そこはのお気に入りの場所。
滅多に誰も足を踏み入れることはないし、
なにより自然が保たれたこの美しい海を一望できるのが何よりも嬉しかった。
だが、そんな滅多に誰も訪れない場所だというのに、
今日はの他にもうひとつ影があった。

 

「……こんな所にいたのか」
「好きなんです。ここ」

 

に声をかけてきたのは彼女の師にあたる男――ワタル。
彼の突然の登場には特に驚くこともせず、また彼に視線をやることもせずに、
ただ海を眺めながらワタルに言葉を返した。

 

 

 

 

 

盾を抱く少女

 

 

 

 

 

「計画は順調ですか?」
「ああ、少々うるさい小蝿がいるが……問題ないだろう」

 

そう言ってワタルはカイリューの背からひらりと降り、の横に立つ。
は相変わらずワタルに視線をやることはせず海をただずっと眺めていた。

 

「ワタルさんは嫌いですか?こういう場所」
「…嫌いではない」
「そうですか、ならよかった」

 

にこりと笑いは嬉しそうに言う。
だが、未だにその視線は海に向かっており、ワタルには少したりとも視線を向けることはなかった。
だがそれもいつものこと。
彼女が人と目を合わせたがらないとこを知っているワタルは、
何も言わずにの横に腰を下ろし、彼女のあごをつかみくいっと自分の方へと向ける。
突然のワタルの行動には驚いているのか、目を大きく見開いて呆然のワタルを見た。

 

「少しは俺に興味を持ったらどうだ?」
「……」

 

少し不機嫌そうな声音で言うワタルに、は返す言葉が見つからず困惑した様子で黙り込む。
そんなの様子を見てワタルはから手を離し、更にから視線をはずした。

 

「ワタルさん」
「なんだ」
「私は人間が嫌いです。
でも、ワタルさんたちのことは嫌いじゃないんです。……矛盾してますよね」

 

ワタルに視線を向けたままは口を開く。
言葉をかけられたワタルがに視線を向けるとは真っ直ぐ視線をワタルに向けていた。
数ヶ月の間ワタルはと行動をともにしているが、
目を合わせたのはこれが初めてで、
ワタルは真剣な表情で自分の心の内を語ったを見て小さな笑みをこぼした。

 

「人はいつでも矛盾を持つものだ」

 

そう言ってワタルは優しくの頭を撫でる。
は小さく「んっ」と声を漏らしたが、
ワタルの行動を不快とは思っていないようでその表情を歪めることはなかった。

 

「俺たちの計画が成功すれば世界は人間のいないポケモンたちの理想郷になる」
「理想郷……」
「ああ、そうだ。俺たちの理想郷だ」

 

そう言ってワタルは立ち上がり海を見渡す。
人の手が入っていない海はとても美しく神秘的に見える。
ワタルはその風景を少しのあいだ眺めていると、不意に横にいたがすくっと立ち上がった。

 

「この風景……、守っていきたいですね」
「ああ、そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■いいわけ
 ワタルさんと夢主が話しているところを書きたかっただけです(爆)
マスクドチルドレンとして生きた夢主は深い根っこの部分では人間が苦手だったりします。
でも、ワタルやシルバー、ゴールドのおかげで人間嫌いが改善されていくと燃えます。