ポケモンたちとの修行のためにミオシティへとやってきたヒョウタ。
ミオジムで父親であるトウガンに、鋼鉄島での修行を終えたたら力試しのバトルをして欲しいと頼み、
了解を得て早々に鋼鉄島へと向かった。鋼鉄島では多くの岩タイプや鋼タイプのポケモンたちとバトルを繰り広げ、ヒョウタとしては十分な成果を挙げたと感じている。
だが、今の段階ではただの自己満足に過ぎない。
目に見える成果を出さなくては、この修行が本当に成果を挙げているとはいえないだろう。だからこそ、ヒョウタは自分の父親であり、自分のエキスパートタイプである岩タイプの弱点である
鋼タイプをエキスパートをエキスパートとするトウガンとのバトルの約束を取り付けてきたのだ。
ここでトウガンにバトルに勝つことができれば、目に見える成果を十分に挙げたといっていいはずだ。早く鍛えた自分たちの力をトウガンにぶつけたいヒョウタのミオジムの奥へと進む足取りは心なしか速い。
ワクワクしながらヒョウタがトウガンの元へたどり着くと、そこには意外な先客がいた。
「どうだ、いい化石だろう」
「ええ、大きいのに保存状態がとてもいい。これは見事な化石ですね」
「そうだろう!この化石を見つけたときは感動したぞ!端の部分を見ただけで大きさと状態の――」
「ですが、興奮のあまり多少横着をしましたね?」
「う、うむ……」
「一部、変に削れています」
化石を撫でながら酷く冷静にトウガンに言葉を投げるのは一人の女。
その化石を見る目は本当に真剣で、自分やトウガンと同種の人間であることがわかる。――というか、初めから彼女の事は知っている。
トウガンを通して何度か顔をあわせたことがあるのだ。
「……どうしてがここに…?」
意外な先客
「…ナギサジムの停電騒ぎのことを調べに?」
「ああ、ジムだけならばともかく、街全体ともなれば見過ごすわけには行かないだろう?」
当然だとでも言うかのように女――はそう言うと、出されたお茶を飲む。
平然と言ってよこすにヒョウタは少し意外そうな表情を見せると、不意に浮上した疑問をストレートにぶつけた。
「今更?」
ヒョウタのどストレートな質問に、はふっと顔から表情を消す。
消えうせたの感情――それが指すことはの機嫌が悪くなったということ。それを理解しているヒョウタは思わず顔を引きつらせると、
の機嫌が悪くなったことを特に気にしていないトウガンが、何気ない様子で別の疑問を口にした。
「ナギサの件は始末書と減給で片が付いたんじゃなかったのか?」
「……え?」
予想もしないトウガンの問い。大分ちぐはぐになっている真実にヒョウタはトウガンとを交互に見比べていると、
不意に腹を括ったようにが口を開いた。
「確かに、シンオウ協会ではそれで落ち着きましたが、こちらでは未処理です。
というか、その事実が届いたのすら最近です。しかも、人伝で」
「ふーむ、どうやらシンオウ協会がそちらに報告しなかったようだな」
若干不機嫌そうな色を含んだ表情でが彼女にとっての事実を言い切ると、
トウガンはそれの事実を肯定するような憶測を口にした。の属す機関はあまり公で公表されているような機関ではない。
おそらく知っているのは各地方のポケモン協会の幹部と、極一握りのジムリーダーだけだろう。あまり人に知られていない――そんな特殊な機関だが、
ポケモン協会本部が独自に組織する機関であるため、その発言力はとても強い。
故に、今回のことに関しては、
事件の発端であるナギサジムのリーダー――デンジの首を切ることも可能といえば可能なのだ。
「…今シンオウはデンジさんを失うわけには行かないからね……」
「ああ、デンジくんの実力はシンオウジムリーダーの中でトップだからな。
彼が抜けるとなるとシンオウ地方のジムリーダーの実力の平均が落ちかねん」
「…なら、もっと頑張って欲しいものだね、ヒョウタには」
「なっ、なんでボク限定なんだよ!?」
「やれやれ」とでも言いたげな表情でヒョウタの見ながらそう言う。
さすがのヒョウタもそれには大人しくはしていられず、立ち上がって声を荒げるが、
ヒョウタの怒りの矛先が向かっているといえば、いつもどおりの落ち着いた態度。この状態でなにを言っても無駄だということを、今までの付き合いで知っているヒョウタは、
苦虫を噛んだような不服そうな表情は見せながらも、黙ってイスに座った。ヒョウタが大人しく座ると、はとあるグラフが書かれた書類を取り出し、
その書類に書かれた棒グラフの二番目に高い部分をトントンと指で叩いた。
「バッチの授与数シンオウ協会調べ――私が頑張って欲しいというのは普通だろう?」
「……ぅう…」
「おぉ、私は下から3番目か!」
「鋼鉄島に篭っている分、挑戦者とのバトル回数が少ないですからね、トウガンさんは」
「ぅむ…」
綺麗さっぱりトウガン&ヒョウタ親子の心をへし折る。
その言葉には一切の容赦はなく、その様子はまさに切って捨てるといったところ。
言い訳するつもりはないのだが、どうにもこうにも返す言葉がなくヒョウタたちが視線を泳がせていると、
不意にが「ですが」と切り出した。
「トウガンさんは数少ない鋼タイプのエキスパート、
まだまだ未知の部分が多いタイプですからその特徴を掴むための時間は必要でしょう。
ヒョウタは元々初心者の登竜門的な位置にあるジムのリーダー、その点を考慮すると平均的な数値といえる」
「え…じゃあ……」
「注意はするが、協会に報告するようなことではないさ」
再度お茶を口に運びながらそう言うに、
ヒョウタとトウガンは胸につまっていた息を一気に吐き出した。に指摘されたことは、間違いのない事実。
これを問題とするかどうかは微妙なところではあるが、
この事実をポケモン協会に報告されては、面倒になることはまず確か。
下手をすればジムリーダー解任に追い込まれる可能性もゼロではない。だが、が報告しないというのだからホッとしてもいいだろう。
「しかし、も人が悪いな。報告しないのであればあんな言い方をせんでもよかっただろう」
「……こういう風に言わないと、危機感をもなたないでしょう?トウガンさんは」
「それは…確かに一理あるね。……でも、ボクの場合はとばっちりだよね?」
「タイミング悪くここにきたヒョウタの運が悪い」
あくまで自分が悪いとは言わず、
キッパリとヒョウタの運が悪いと言ってのけるにヒョウタは呆れを含んだため息を洩らした。確かに、このタイミングでミオジムにやってきたのはヒョウタの意志ではある。
の言うとおり、ヒョウタの運が悪かったのかもしれない。だが――
「でも、に会えたのは運が良かったよ。貴重な意見も聞けたわけだしね」
「……ポジティブだな、ヒョウタは」
「意外かい?」
「ああ、意外だったよ」
あまりに自分の言葉をオブラートで包もうとしないに、
ヒョウタは呆れと諦めを含んだ苦笑いを洩らしながら「そう…」と力なく言葉を返す。
明らかに元気のなくなったヒョウタであったが、それをわざわざ気にするようなではなく、
平然とした様子で脱力しているヒョウタを眺めていた。
「うーむ、ヒョウタの嫁はでもいいな」
「はぁあ?!」
突然突拍子もないトウガンの言葉に、ヒョウタは素っ頓狂な声をあげる。
いきなり「嫁」なんて単語を出されては、それは動揺しないはずはない。
を異性として意識したことはないが、
ヒョウタには思い人がいるわけで――彼女のことを考えると反応せずにはいられなかった。
「申し訳ないですが、今は遠慮しておきます。ヒョウタがトウガンさんぐらいシブくなったら前向きに検討します」
「ちょ、、それ、どうつっこまれたいんだよ」
「残念だがヒョウタ、ツッコミ待ちじゃない。本気だ」
言葉通りに、本気の目で言ってくるにヒョウタは止め処ないため息をつくのだった。
■いいわけ
予想を遥かに上回って個人的には仲良しな感じに仕上がりました。ヒョウタさんもトウガンさんも可愛くて好きです(笑)
シブいモノの大好きの炎赤主なので、オジサマなトウガンさんに大変懐いております。それにどうりアクションしていいかわからないヒョウタさん(笑)
そういえば、何気にこれ親子夢でしたね。やっぱりこの親子は色々な意味で大好きです。