2月14日。
それは、グリーンにとって、とても憂鬱な日だ。自分の仕事場であるトキワジムに向うために外に出ると…
『私の気持ち、受け取ってください!!』
そう言って走り去っていく少女達。取り合えず、20名前後。
これで済むならば憂鬱にもならないのだが…これで済むはずがない。
『チョコ、受け取ってください!!ついでに、ジムに挑戦させてください。』
『待て、ジム戦はついでなのか。』…とグリーンは問いたくなったが、仕事上、無碍に断るわけにもいかず、仕方なく挑戦を受けは、した。
だが、こんな事を言っているような奴ばかりなのだから、誰一人としてバッチを手に入れられるものもいず、無駄でつまらないバトルが30回ほど続いた。
「……胃が痛い」
グリーンはやっと休憩時間を手に入れ、ソファーに腰を下ろした。
そして、ソファーの横に無造作に積まれているチョコレートが入っているであろうラッピングされた箱を怪訝そうに見つめた。
この箱の中身が、全てチョコレートやら、クッキーやらケーキやら…そうかと思うと背筋を悪寒が襲った。
元々グリーンは甘いもの、ついでに言うと洋菓子が好きな人間ではない。当然の如く、苦手なものを送りつけられて喜ぶような危険な人間でもない。
毎年のことだから多少は諦めもつくのだが…やはりげんなりだ。
「グリーン様、また女性がいらっしゃっております…」
「……またか…っ」
休憩時間まで削がれてもグリーンならば、怒りはしない。しかし、あくまで…いつものグリーンならばだ。
ところが、今のグリーンは冷静ではない。本日一日のイライラ&ストレスが積もり、尚且つ、爆発しているのだから。
乱暴にボールを掴み、バトルフィールドのある場所へと向う。
『一瞬で終わりにしてやろう』そんな考えがグリーンの頭の中を駆け巡っていた。
「いきなりバトルしかけてくるからビックリしたよ。ねぇ?」
一人の少女がグリーンに向って苦笑いを浮かべている。そして、グリーンのサイドンは目を回して倒れている。
少女の横にはパートナーであろうリザードンが勝ち誇ったように笑っている。
『まぁ、俺の敵ではなかったがな』
「大人気ないから勝ち誇らないでよ……」
勝ち誇るリザードンに少女は困ったかのような表情を向けた。
リザードンは『冗談のわからん奴だ』と言って少女の腰に取り付けられたボールに戻って行った。
「…どうしてここに??」
「へ?あっ、うん。あのね、研究かも一段落ついたし、暇が出来たから遊びにきたの」
にっこりと笑って、グリーンがどうやっても勝てない相手――は言った。まぁ大してグリーン自身、に勝つつもりなどないが…。
「あと…今日バレンタインだし…」
一瞬、グリーンの中で一種の期待感が生まれる。チョコレートやクッキーは好きではない。
しかし……好きな人間から貰うモノ。尚且つ、これは愛だの恋だのが絡む行事上でのプレゼントだ。既にそこで好きだの嫌いだのということはなくなっていた。
取り合えず……からプレゼントを貰えればそれでいい!……とまでは言わないが、そのような感じだ。
「グリーン甘いもの嫌いだろうから、それを消費するの手伝いに着た!」
嗚呼、こんな奴だった。こんな奴なんだよな…色恋沙汰には無縁の幼馴染なんだよな…。
…と、グリーンは心の奥底で泣いた。一種、お約束とも言えようの答えにグリーンは叩きのめされていた。
「…?どうしたの??グリーンいっつも小さいころ私に『チョコ食べて〜』て言いに来てたから…
だから、今も駄目なのかなぁ〜っと思ってきたんだけど…好きになってた?」
少々不安気な表情でグリーンの顔を覗き込む。そんなの表情を見てグリーンはなんとなく毒気を抜かれ『いいや』と答えてを奥へと案内した。
「相変わらずモテモテだね」
「嬉しくないがな…」
「世の男性を敵に回す言葉だよそれ…」
は苦笑いしてカップに紅茶を注いだ。テーブルの上には、ケーキやらチョコレートやら…
洋菓子達が所狭しと並び、ほとんどに『LOVE』やら『I LOVE YOU』やら…多くの愛の言葉達が他に『負けるか!』とでも言うかのように目立っている。
「うわぁ〜やっぱりのせいか凝ってるなぁ〜…」
は洋菓子達を眺めて嬉しそうな溜息をついた。小さい頃、グリーンが貰ったバレンタインのお菓子は、全てポケモン達とが食べるのがいつものことだった。
子供の頃は、どうしてお菓子を上げるのか…、なんてことはやっぱり色恋沙汰に疎いは、わかっていなかった。故、お菓子を食べることに罪悪感など抱くわけがなかった。
そして、今は…。…………嬉しそうな溜息をつく当たり、未だにわかっていないのだろう…。
だが、グリーンには案外そんなことはどうでもいいことだった。わかっていようが、いまいが、貰えないのだし…。
「はい、お茶だよグリーン」
「ああ………。……なんで緑茶なんだ…」
グリーンはの注いだお茶――湯のみに入った緑茶を見てに尋ねた。
「あれ?緑茶嫌いだった?」
「いや、そうではないが…」
「ならよかった。お団子には紅茶じゃあわないからね」
そう言いながらはフワリと笑い、グリーンの前に団子の乗った皿を置いた。
「これは…?」
「昔、グリーンが御婆様のお団子気に入ってたでしょ?だから、御婆様に作り方を習って作ってきたの」
無邪気に笑って言う。グリーンは忘れかけていた記憶を思い出して嬉しさがこみ上げてきた。
『グリーン君、このお団子好き?』
『うん…美味しいから…』
『じゃあ、お菓子いっぱい貰う日に、お菓子貰うお礼に私が作ってあげる!』
『本当!?』
『うん!約束!』
その後、は消息を絶ち、会う事はないかのように思われた。だが、また再開した。
だが、そのときも色々を事件が起こり、バレンタインだのなんだのと言っている暇はなかった。
そして…今。
「ずっと約束守れなかったけど…やっと守れたね」
「………待たせすぎだがな」
「あははっ、本当だね」
思いとは裏腹な言葉。けれど、ならば自分の気持ちを…嬉しさをわかってくれているとグリーンは確信していた。
根拠などない…けれど、絶対的な。確信がグリーンのそのどこか嬉しそうな表情が物語っていた。
〜アトガキ〜
【グリーン夢】
バレンタインネタ第一弾!リクも第一号!案外、幸先いいのかもしれないぞ!
短いけれど…これがグリーンと家のヒロインのバレンタイン。テーマは、【久々の『恒例』】
久々なんだから、恒例にはならない気がするけれど、気にしない。恒例だったんだから!
次は誰を書く事になるのだろう…。楽しみな反面…ドキドキです(苦笑)