初めて会ったときは、『男』だった。オレよりも数倍確りした強いトレーナーだと思った。
そして次に会ったときは、やっぱりオレやグリーンよりも圧倒的な力を持ってて、感心した。
だけど、時に冷静さを失ったところを見たときは、内心驚いた。でも、その行動になぜか納得していた。
そして………
 
「どうしたのレッド。手が止まってるよ?」
 
全てを包みこむような笑顔を浮かべてオレに笑いかける『女』の
このだって、確りしていて強いトレーナー。
でも、やっぱり『ヒトのコ』ってやつだったりするんだよな。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
暖かい日差しが全てを照らしている。
モンスターフィールドに住むポケモン達の多くは、このよう気によって欠伸の一つや二つを洩らしているのではないだろうか?
ポケモンに限った話でもない。人間だってこのよう気では欠伸が漏れる。
現にに頼まれて手伝いをしているレッドはこれまでに多くの欠伸を洩らしている。
しかも、こらえるつもりもないようで、盛大な大あくびをだ。
はそれを止めることも注意することもなくただ微笑ましそうに見ているだけだった。
無関心ではないのだが、的にはレッドの大あくびは特に気になるものではないのだろう。
「よっと…これで最後??」
「ええ、それで最後。せっかくの休みに手伝いなんてさせてゴメンね」
はすまなそうにレッドの顔を覗きこんだ。レッドは慌てて『気にしなくていいよっ!』と言葉を返した。
レッドがの手伝いをする事になった成り行きと言うのは、
レッドがたまたまマサラに戻ってきてのところに顔を出したところ、が作業に手間取っていたので『手伝う』と言ったことから始まっていた。
はじめはも疲れているであろうレッドに手伝いをさせるのは悪いと思い、断ったのだが、押しきられて今に至っている。
ポケモンマスターであると戦った後、レッドは初めの内はできるだけと顔を会わせるようにしていた。
同じ町出身の同年代の人間。それがレッドにとっては珍しいものであったせいもあるし、
ブルーとグリーンがと親しげなのに、自分だけ親しくないのは勝手ながら、ずるいのではないかと思ったせいもある。
あと、宣戦布告したグリーンには負けていられないと思ったのが案外、一番の理由なのかもしれない。
「ありがとう。そうだ、レッドと一緒に行きたいところがあるんだけど……いいかな?」
男のとは全くもって似ても似つかない女のの性格。外見も、髪の色と目の色ぐらいなものしか共通点はない。
レッドは本当に同一人物なのかと悩むときがある。どちらが本物のなのかもわからなくなる。だが、どちらでも案外よかった。
「当然っ。で、どこに行くんだ?」
「いいところだよ。私のお気に入りの場所。フシギちゃん達も気に入ってくれるよ」
今、目の前にいるのがレッドの知っているなのだし、
こんなに綺麗で曇りのない笑顔を見せられて疑えるほどレッドは疑り深い人間ではなかった。
 
 
 
「今行くところはね、草ポケモンと虫ポケモンが中心になってるところなの。ポケモン達が管理する花畑もあるのよ」
長い青味がかかった銀髪を風に任せては笑顔でそう語った。
その語る様子はとても楽しそうで嬉しそうだった。よほどその場所が気に入っているのだろう。
レッドも自然とその顔に笑みが生まれる。
の笑顔は好きだし、見ていて安心した。この感情に、理由はつけられないし、いらないとレッドは思っている。
「うわぁ〜!綺麗なところだなぁ〜!!」
ハクリューとプテラの力を借りて二人がたどり着いた場所は、の言葉通りに美しい花々が咲き乱れる花畑だった。
花畑ではポケモン達が花に水をやったり、香りを楽しんだり、摘んで花冠を作ったり。
ポケモンの楽園ではないかと思うほど素晴らしいところだった。
レッドはしばしその光景に目を奪われた。今自分の目の前に広がる世界が本物なのかどうかさえもわからなくなった。
「ん?」
ふと我にかえってジタバタと振るえる腰のボールを見てみればレッドのパートナー達が『出してよ!』とでも言うかのようにその目を輝かせていた。
レッドは苦笑いしてを見るとは笑顔でレッドを見た。言葉を使用していないが、お互いにいいたいことは大体わかる。
同じポケモンを愛するトレーナーとしてこの光景とポケモン達を見て大体思うことなど同じなのだし。
ポンッポンッポン!気持ちのいい音を立ててボールからポケモン達が外へと飛び出した。
レッドのパートナーであるフシギバナやバタフリーは特にこの花畑を気に入ったらしく、すぐに草花と遊び始めた。
「よかった。レッドもポケモン達もここを気に入ってくれたみたいで」
「そりゃ誰だったこんな綺麗なところだったら気に入るよ。でも、これ全部ポケモン達が管理してるのか?」
「ええ、全部ポケモン達だよ。初めは育て方や、管理の仕方は私やお婆様で教えてあげていたけど…今は彼等の方が上手なのよ」
苦笑いして答える。だが、その笑顔はどこか嬉しそうだ。
「でも、そのことによってこの花畑は成り立ってるし、このモンスターフィールド全体の自然も保たれてる…
ほんと……私はポケモン達に助けられてばかりだよ…恥かしい話だよね。ポケモンマスターとか豪そうな称号持ってるくせにさ」
少し自虐的に笑っては近づいてきたフシギダネを抱き上げた。フシギダネは嬉しそうにに抱かれている。
「ポケモン達に恩返しがしたくてこのモンスターフィールドを立てたって言うのに…
最終的にこの場所の管理をしているのはポケモン達…これがポケモン達にとっていいことなのかどうか…時々わからなくなるんだ…」
「いいことだよ。のやってることは。ここのポケモン達は伸びやかで広い心を持って育ってる。普通の野生のポケモンじゃこうはいかない。
野生のポケモンは殺伐とした心を持った奴が殆どで、人間に敵対心を持ってる奴も多い…
でも、ここのポケモンは人間だろうと、なんだろうと関係ないって顔してる。
どんな生き物でも認めることのできる強くてしなやか心を持ってるよ。それを作っているのはやっぱり、だとオレは思う」
最後まで言いたいことを全て言いきってレッドはなぜか慌てた。
どうしてこんなことを根拠もないのに口走ったのかわからなかったし、なにより自分で何を言っているんだかよくわからなかったからだ。
「いあ、あの、と、兎に角オレが言いたいのは……ここのポケモン達はが幸せだと思ってくれることが一番嬉しいんだと思う!」
の腕の中にいるフシギダネに『なっ!』と声をかけ同意を求める。
言葉が通じたのかは一切不明だが、フシギダネは元気に『ダネッ!』と泣き声をあげた。
「そう…だと嬉しいね。」
「いーや!そうなんだよ!うわっとっとっと…!」
弱々しく笑って言葉を返すにレッドはほぼ確信めいたかのように言いきった。
そしての腕の中にいたフシギダネはピョンと地面へと飛び降りたかと思うと蔓でレッドの手を引いた。おそらく遊んで欲しいんだろう。
レッドはそんなフシギダネの心を理解したのか、すぐに笑って『他のポケモン達とも遊ぼうぜ!』と言ってフシギダネと一緒に花畑に走って行った。
「なぁ〜!も遊ぼうぜ〜!」
レッドがに向って手を振る。レッドの足元ではフシギダネがを急かすようにピョンピョンと跳ねている。
は苦笑いを洩らした。レッドの笑顔を見ていると、先ほどのレッドの言葉が正しいように思えてきた。
『ここのポケモン達はが幸せだと思ってくれることが一番嬉しいんだと思う』
そう思われているのかはわからない。けれど……はレッドの言葉を信じたいと心の中で思っている。
〜!おいてっちゃうよ〜!!』
「ほらっ、早く!」
笑顔が自然と生まれる。そしてレッドとフシギダネの元へ向って足が動き始めた。
「今行くよーっ!!」
きっと、レッドの言っていた言葉は、モンスターフィールドの全てポケモン達と同じではなくても…
必ず、この花畑のポケモン達と同じ考えだろう。彼もまた、強くてしなやか心を持ってるのだから。